サッカー日本代表は23日に行われたカタールワールドカップのグループステージ初戦でドイツ代表に勝利し、決勝トーナメント進出に向けて好発進を切った。
1点ビハインドから2点を奪って逆転勝ち。途中出場だったMF南野拓実やFW浅野拓磨、MF堂安律、MF三笘薫といった選手たちがゴールに絡み、チームとしての層の厚さも示した。そして、一体感も最高潮に達している。
ドイツ代表戦後、MF久保建英は「高ぶっちゃって、ベンチで『カードをもらわないように』という話もありましたけど、『もらってもいい』という選手も何人かいて、前に出てる人もいました」と明かした。
確かに日本代表の逆転ムードが漂い始めてから、ベンチからは選手たちが立ち上がったり、前に出たり。本来ベンチメンバーは座っていなければならず、前に出すぎるとイエローカードの対象になることもあるが、「そんなこと関係ない」とばかりにピッチ上の選手たちと心を1つにして戦った。
ベンチから試合を見届けたMF守田英正は「最後の10分、15分、アディショナルタイムが長かったですけど、ベンチのメンバーが外から声を出していた。そういうのは今までになかった部分だと思います」と述べる。
57分に途中交代でベンチに退いていたDF長友佑都も、そこで改めてチームの団結力を実感したようだった。
「絶対に何がなんでもこの試合に勝ちたいという気持ちは誰よりも強かった。ベンチのチームメイトもみんな心が1つになっていました。比べる必要はないかもしれないですけど、ドイツと日本のベンチの雰囲気は全然違っていたと思いますよ。みんな熱量があって、みんな戦っていた。あれは感動するレベルだなと。僕はずっとみんなの心を1つにつなげることが大事と言っていたのは、こういうことなんです。これは伝わるんですよ」(長友)
ドイツ代表のベンチに、立ち上がってピッチを鼓舞するような選手はいなかった。試合の流れが悪くなっても、全員が座ったままピッチを見つめるだけ。ルールに則っているとも言えるが、そこに日本代表のような熱量はなかった。
途中出場でピッチに立った三笘も、ベンチからのエネルギーが大きな後押しになったと感じている。「僕たちがドイツ代表戦に懸ける思いと、あっちが僕たち(日本代表戦)に懸ける思いは、そういったところの差に出ると思う」と語り、次のように続ける。
「見えない力が働くと思いますし、ベテラン選手がそういったところを経験して、自分たちに刺激をくれて、自分たちも生き生きできている。そこは僕たちもついていっているところがありますね」
今、日本代表の中で合言葉のように使われている単語がある。「コラージョ(Coraggio)」がそれだ。イタリア語で「勇気」や「勇敢さ」を意味するこの単語をチーム内で使い始めたのは、もちろんイタリアでのプレー経験を持つ長友だ。
「精神的なミーティング時に話して、1人ひとりに『コラージョ!』と締めて、終わったら自然にみんな言うようになっていました。言葉は大事なんですよ。自分を奮い立たせてくれるもの。それが合言葉になっていて嬉しいですね」
報道陣に公開された26日の練習冒頭のボール回しの中だけでも、「コラージョ」という言葉が何度か聞こえた。長友が発していることが多いのだが、他の選手たちはその様子を冷ややかに見るのではなく、しっかり呼応してプレーへの集中力が高まる。「コラージョ」は短いが、確かな力を持つチームの合言葉になった。
「今、すごく団結しているなと感じていて。もちろん(試合に)出られなかったら悔しい思いもあるんだけど、それを持ちながらチームのために戦う。嫉妬で足を引っ張るんじゃなくて、今何をすべきかということを常に1人ひとりが考えられている。
この前の試合を見ても、ドイツ代表のベンチの雰囲気と日本代表のベンチの雰囲気では全く違っていたと思うんですよね。1つになる心が、見ている人に感動を与えて、スタジアムもどんどん日本寄りになっていた。日本のサポーターの皆さんもたくさん来てくださっていたんだけど、外国の方々も日本を応援し始めたと。
やっぱり人は心で動いているもので、何か感じるものがあったと思うんです。日本は本当にいいチームだと。みんなで戦っているのが感じられた結果だと思っています。だから僕自身感動したし、それが結果につながってすごく嬉しかったです」(長友)
日本代表は「ベンチ」でもドイツ代表に勝った。「コラージョ」を合言葉に団結するサムライブルーは、目標とするベスト8に向けて全員が一丸となって前進を続ける。
(取材・文:舩木渉)