サッカー日本代表はFIFAワールドカップカタール2022でラウンド16敗退という結果に終わった。スペイン代表とドイツ代表を撃破しての決勝トーナメント進出を評価する声も多いが、そのままでは日本サッカーは停滞するだろう。日本サッカーが前に進むための総括とは何なのかを真剣に、そして冷静に考える必要があるだろう。前編ではワールドカップを振り返り、日本サッカーの底上げについて考える。(文:河岸貴/構成:加藤健一)

●ベスト8に行ける可能性は十分にある

 私はドイツに来てから日本を思う気持ちが強くなりました。海外でプレーする選手の多い日本代表や、欧州で生まれ育った選手が多いモロッコ代表などもそうだと思います。ルーツというのは、他国にいればいるほど強くなる。ドイツの移民のなかで、最も割合が多いトルコ移民やその子孫たちは、母国を愛する気持ちが大きかったりする。一方でドイツは移民国家として非常にインターナショナルで、マルチカルチャーな国の一つ。国家に対する価値観は各国各選手様々でしょう。

 そういった点を含めて、ワールドカップは純粋なサッカーという範囲では語れなくなってきていると思います。私はやはりクラブ最高峰の大会、UEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)がサッカーという競技のレベルでは最も高く、正直なところワールドカップのレベルがそれに匹敵するとは思いません。

 強豪国と言われるチームを見てみても、多くはそこまで成熟しているとは言えないでしょう。それは当然で、チームを成熟させることができる十分な時間は代表チームにはありません。W杯の面白さの一つでもあるジャイアントキリングは短期間でもチームの団結力、組織力があるチームが起こす。やはり、同胞意識、母国への思い入れ、国の文化背景などが影響していると思います。

 したがって、日本代表が今後、ベスト8に行ける可能性は十分にあると思う。チームとして規律正しく戦える強さもあるし、そして選手各々は海外の高いレベルで戦っている。単なる集団行動のチームではなく、チームプレーができる。

 ところで、スペイン代表戦ではボール保持率が10%台でした。30%を切るチームが勝てる確率は高くありません。ボール保持率が高ければ勝てるわけではありませんが、低ければ必然的にチャンスの数も少なくなります。結局、12年前の南アフリカワールドカップと同じで、これを4年後にやっても同じような結果は望めないでしょう。

 正直に言えば、グループリーグ突破はミラクルの要素が多かれ少なかれありました。今大会は再現度の低い勝ち方で、個人的にはコスタリカ戦、クロアチア戦を深く受け止めなければ、ベスト8には近づけないと思います。

●「12年前と同じ」日本代表は力尽きた

 クロアチア代表のように、シンプルにボールをDFライン背後に入れてくるサッカーは日本代表にとって嫌だったと思います。ラフなパスを前方へ入れてきたこともあり、オープンな展開になりました。

 こういう展開は、個々の判断と責任が問われるようなシチュエーションが増えます。ボールを奪ったら速く前へ行くのか、または落ち着いてボールを保持するのか、前線の選手は裏に抜けるのか、DFはディフェンスラインを上げるのか、プレスはどうするか。ボールを持たされたコスタリカ戦も同様です。

 守備は計算できるが、攻撃は水もの、と言われるようにドイツ戦、スペイン戦の「守ってカウンター」という明確なタスクから、より個々のクリエイティブさが求められる展開には弱かったことは否めない。簡単に言えば確固たる攻撃の戦術がなかった。コスタリカ戦では、「日本代表は勝つ気があるのか?」などメンタリティーを疑う声もチラホラ聞かれましたが、それはボール保持時における各選手の「迷い」から見受けられたかもしれません。

 判断できないわけではなく、責任を取れないわけではなく、クリエイティブさがないわけではない。それを発揮させてくれる枠組がなかった。一方で、クロアチア代表には非常に経験のあるクロアチア代表の象徴でもあり、バロンドーラーのルカ・モドリッチがいた。モドリッチと代表で長く中盤を構成するマテオ・コバチッチ、マルセロ・ブロゾビッチらの圧倒的経験の前に、日本代表が力尽きたと見るのが妥当であると思います。

 日本代表の選手たちも自分たちが主導権をある程度握らないと厳しいというのは感じたと思います。ベスト8のチームを見ても主導権を握れる強豪国が多く残っています。モロッコ代表に関しては、組織力を持って勝って当然という内容で、グループも首位で突破しています。

 モロッコ代表の戦い方は、日本代表にとって1つのモデルになり得るでしょう。スペイン代表戦の守備は理想的でした。前から行きたい気持ちを抑えながら、自陣での守備はコンパクトにオーガナイズされていて、ボール保持者を自由にさせない、サイドでの数的優位の作り方などは、決して自陣ゴールを守るだけではなく、ボール奪取からゴールを奪うことも考えています。一方で準決勝のフランス戦で見せたように、負けはしたものの、ボール保持時にもクオリティーがある。アフリカ勢で初のベスト4進出はミラクルではなかった。

●日本サッカーは底上げされたのか?

 今回の結果を受けて「日本サッカーが…」「日本サッカー協会が…」とつなげてしまうのは非常に危険です。次の大会では日本代表の真価が試されるし、今回の結果で一喜一憂してはいけません。

 間違えてはいけないのは、「日本代表」が良かっただけで、手放しで「日本サッカー」が良くなっていると断言できないことです。クロアチア代表戦に先発したJリーガーは、海外で長くやってきた長友佑都と、権田修一、谷口彰悟の3人。日本のオリジナルで育った選手は少ないし、海外で時間をかけステップアップし研ぎ澄まされた選手たちが中心だったというのは強調しなければなりません。

 さらに、ここで1つ考えなければいけないのは、ワールドカップでベスト8に行くとどうなるのかということです。海外で活躍する選手たちをベースに戦えば、歴史を塗り替えることはできるかもしれない。それは素晴らしいことですが、ただ、それで日本サッカーの発展につながると言い切れるのでしょうか。

 4年に一度の大会は海外で活躍する選手が集結し魅力的ですが、日本サッカー向上の指標軸はJリーグにあるはずです。今のJリーグの選手たちで日本代表のようなサッカーができていたかは懐疑的にならざるを得ません。もし、Jリーグの選手中心に構成されたチームでワールドカップベスト16、ベスト8にいけたのであれば日本サッカーが底上げされたと言えるでしょう。

 自国のリーグがスポーツ的に文化的に発展すれば、国内でも地域でもサッカーが溢れて熱狂が生まれる。実際にそういうクラブもあるし、そういうものを日本全国に広げていく草の根活動こそが大切なのではないでしょうか。

(文:河岸貴/構成:加藤健一)

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