23日、カタール・ワールドカップ(W杯)の初戦で日本代表はサプライズを起こした。2014年のブラジルW杯の王者であり、歴代2位の4度のW杯優勝を成し遂げているドイツ代表を下したのだ。

【動画】感動!ドイツ撃破の裏にあったキャプテン・吉田麻也のロッカーでの鼓舞

W杯に参加していないのは過去2度、優勝4回、準優勝4回、3位も4回という言うまでもなく世界屈指の強豪国だ。

日本はといえば、今大会の目標がベスト8以上、"新しい景色"を見ることを目標に掲げている通り、ベスト16に3度輝いただけ。ドイツが出場した20回の大会のうち、17回は日本が見たい景色に該当する。

これだけの実績の差があれば、当然世界が予想したのはドイツの勝利。日本が勝つと本気で考えていた人は、日本人を除けばほとんどいないと言って良いだろう。いや、日本人ですら勝てるはずがないと思っていた人も多いに違いない。

そんな中での勝利。さらに前半にかなり押し込まれていた展開での逆転勝利を予想できた人はいないはずだ。ただ、選手たちはそのサプライズを起こした。

「ドイツは俺らに負けるなんて1ミリも思ってないぞ」試合前のドレッシングルームで口に出したのはキャプテンを務めるDF吉田麻也。今シーズンからブンデスリーガでプレーする吉田が、選手たちに発破をかけた。日本代表の選手たちだけは、ドイツに勝てると信じてプレーを続けてきたはずだ。抽選で組み合わせが決まり、初戦で当たると決まった時から、勝利を想像して半年以上、準備をしてきたはずだ。

◆勝因の1つは選手たちのメンタリティ

強いメンタリティでドイツを上回った日本代表、改めて感じる歴史を動かした日常の積み重ねとプラン遂行力

では、日本はなぜ勝てたのか。1つは吉田の言葉にも表れているメンタルの部分だ。自分たちは勝てるという思いを持ち、相手に怯むことなく挑んだこと。そして、その裏付けとして、日頃のプレー環境も大きく影響しているといえる。

森保一監督が選んだ11人の先発メンバーのうち、Jリーガーは3名。ただし、GK権田修一(清水エスパルス)、DF長友佑都(FC東京)、DF酒井宏樹(浦和レッズ)の3名は、ヨーロッパでのプレー経験がある。権田こそあまり経験はないが、長友、酒井はチャンピオンズリーグ(CL)でもプレーし、長友はイタリア、トルコ、フランス、酒井はドイツとフランスでプレー。十分な経験値を持っている。

また、途中出場の5名に関しても、すべて海外組。つまり、16名全員がヨーロッパでのプレー経験を持つ選手だ。さらに、板倉滉(ボルシアMG)、吉田麻也(シャルケ
)、遠藤航(シュツットガルト)、鎌田大地(フランクフルト)、田中碧(デュッセルドルフ)の先発5名、堂安律(フライブルク)、浅野拓磨(ボーフム)の途中出場2名は全員ドイツでプレー中。ハノーファーに在籍していた酒井も合わせると8名がドイツのサッカーを知っていることになる。

加えて、ブンデスリーガの中でもデュエルキングとして名を馳せる遠藤、フランクフルトで絶好調のシーズンを過ごす鎌田はドイツ代表の選手をも上回るプレーを普段からしていることが数字にも表れており、負け理由は実績のみとなる。

ゴールを決めたのも堂安と浅野のブンデスリーガー。強豪国を恐れる時代ではもうない。試合後に鎌田は「間違いなく彼らの方が実力があって、クオリティもありますが、僕たちは勝てると思っていました」と語った。その気持ちこそが勝利への一歩だったはずだ。

◆狙いを持って動き、初戦の恐ろしさをドイツに味わわせる
強いメンタリティでドイツを上回った日本代表、改めて感じる歴史を動かした日常の積み重ねとプラン遂行力

そして2つ目は、森保監督の決断力、そしてそれに応えた選手たちの積み上げてきた準備と言える。

明らかに前半はドイツの試合。PKの1点でよく抑えられたと言ってもいいが、あそこで失点を重ねていれば、この勝利はなかったと言える。

攻め続けられれば焦れてくるものだが、吉田と板倉、そしてボランチの遠藤を中心に、落ち着いて守り続けたことは大きい。PKは残念だったが、1-0はほぼプラン通りだっただろう。

そしてハーフタイムに森保監督は決断。システムを変更し、3バックを採用。それを実現可能にしたのは冨安健洋(アーセナル)の存在だ。

クラブでは右サイドバックと左サイドバックでプレーし、代表ではセンターバックでプレーする冨安。守備のユーティリティプレーヤーが間に合ったことが奏功し[3-4-2-1]のシステムに変更した。ドイツの左サイドバックであるダビド・ラウムが常に高い位置をとり続け、3バック気味でドイツが攻撃をしてきたことで、日本の両サイドハーフが低い位置になっていた。

しかし、ドイツが攻撃時にこの形になることは予測できたことであり、日本は後半からミラーゲームに近い形を取ることに。その結果、相手の3バックの脇にあるスペースを使うことが可能となった。

加えて、押し込み続けることができた前半の流れから、ドイツは極端にハイラインを敷くことを継続。その結果、広大なスペースが背後にでき、GKマヌエル・ノイアーがカバーする予定も、前田大然(セルティック)や伊東純也(スタッド・ランス)、三笘薫(ブライトン・&ホーヴ・アルビオン)、浅野とスピードある選手が背後を突き始めて日本はチャンスを作って行った。

後半もドイツペースではあったが、イルカイ・ギュンドアンを下げたことで攻撃が回らなくなり、日本が中盤でも優位に立つことに成功。結果、左の三笘が持ち上がった流れから同点ゴールを決め、一発のロングボールから浅野がゴールを決めることに。狙い通りと言っても良い形でゴールを2つも奪い、勝利することができた。

ドイツとしては押し込み続けられた結果、慢心も少なからずあっただろう。浅野の2点目も完全に後手に回ったが、ブンデスリーガでノーゴールの選手であれば、抑えられると慢心が生まれても仕方なかったかもしれない。いずれにしても、ドイツは初戦の強さを2大会連続で痛感する羽目になった。

◆一喜一憂せず、次もプラン遂行を
強いメンタリティでドイツを上回った日本代表、改めて感じる歴史を動かした日常の積み重ねとプラン遂行力

試合前の段階で、プランを遂行することが重要としたが、1つはプレス、1つは決定力だった。プレスに関して言えば、前半はいつものハイプレスで先にネットを揺らしたがオフサイドに。その後は、ドイツが組み立てを変え、まずは遠藤に近づかずにサイドでプレーしたこと、そして遠藤を誘い、逆サイドを空けさせてボールを送り込むことにした。

要所を締めるという守備はできたが、隙を突かれた結果がPKとなり、試合中の対応力という点ではドイツが上回ったのが前半だった。

しかし、後半はシステム変更により選手の立ち位置が変わり、ドイツの攻撃に変化が生まれなかったこともあってプレスが効き始めるようになった。その結果が、多くのチャンスに繋がり、ゴールへと繋がって行った。

そして決定力という部分でも、少ない決定機を2つ決め切ったといのは日本にとって大きい。これまではなかなか格上相手にチャンスは作れてもゴールを決めることができずにいた。それがしっかりと決まったことが勝利に繋がった。

ただ、コスタリカ代表は全く別のチーム。同じ戦い方がハマる相手ではない。間違いなくスペースは与えられず、浅野や前田を背後に走らせるような形は通用しないと言って良い。一喜一憂せず、しっかりと積み上げたものを出すこと、そしてそのプランを遂行することが、勝利に近づくことになる。
《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》

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