【カメラマンの目】ポーランド対サウジアラビアを取材、熱戦を前にカメラマンに起こった意外な奇跡とは?

 サッカーは選手、スタッフ、レフェリー、記者・解説者、フォトグラファーなど、それぞれの立場から見える世界がある。22歳の時からブラジルサッカーを取材し、日本国内、海外で撮影を続ける日本人フォトグラファーの徳原隆元氏が、カタール・ワールドカップ(W杯)を現地で取材。ファインダー越しから見たサウジアラビアサポーターの熱気や現地の様子を独自の視点からお届けする。

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 現地時間11月26日、カタール・ワールドカップ(W杯)グループC第2節ポーランド代表対サウジアラビア代表戦。エディケーション・シティ・スタジアムのスタンドを埋めるサポーターの勢力図はサウジアラビアがリードしていた。彼らが発する熱量は早くも沸点に達する勢いだった。

 そうしたサポーターたちの声援をバックに中東の緑の風がピッチを駆け抜ける。展開はサウジアラビアが攻め、ポーランドが受ける形で進んでいく。サウジアラビアは左サイドに張ったMFサレム・アル・ドサリを中心に攻撃を仕掛ける。ポーランドは落ち着いてこの攻撃に対応しチャンスのときを待ち、39分にMFピオトル・ジエリンスキがゴール。37分にはエースのFWロベルト・レバンドフスキも決めサウジアラビアを振り切った。

 試合内容、サポーターが声援によって作り出した雰囲気となかなかの熱戦だった。

 この熱戦の前にちょっとした嬉しい出来事を体験した。2日前のこのエディケーション・シティ・スタジアムで行われたウルグアイ代表対韓国代表(0-0)戦で、パソコンの充電ケーブルを忘れてホテルに戻ってしまった。長い海外取材の場合、カメラやパソコンの備品はなにかあってはいけないと思い、念のため2組を用意している。忘れて来てしまったという失敗の心は残るものの仕事的にはとりあえず支障はない。

 多くの報道陣がやって来ているワールドカップで、個人所有のパソコンの充電ケーブルの紛失など砂粒ほどのことであり、まあ見つかることはないだろうと思っていたが、それでもメディアセンターのインフォメーションデスクに聞いてみた。

 対応してくれた女性は親切にもスタッフ専用のオフィスに入って、充電ケーブルが届いているかを調べてくれた。すぐにオフィスから出てきた女性の手には、日本語で注意事項が書かれたテープが巻かれている充電コードが握られていた。

 まさにサッカーは奇跡を起こす。試合前にサウジアラビアサポーターが掲げていたボードではないけれど、「I LOVE QATAR」である。(FOOTBALL ZONE特派・徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)