1年前では想像していなかった未来だろう

時代の流行りもあってセンターフォワードには純粋な9番ではなく、他のポジションの選手を配置し偽9番を軸に戦うチームが増えてきた。

クラブでいえばマンチェスター・シティやリヴァプール、チェルシー、代表ならドイツ代表やスペイン代表、ブラジル代表がそうだろう。ただ偽9番が対策されるようになると、次に必要なのはパワフルな9番タイプであり、シティがアーリング・ハーランドを、リヴァプールがダルウィン・ヌニェスを獲得した。両者のここまでは概ね成功であり、とくにハーランドは止まることを知らない。

代表チームもその流れなのか、今大会は純粋な9番を最後の最後で招集したチームが多いように感じる。ドイツならニクラス・フュルクルク、ブラジルならペドロだ。

ドイツはこのフュルクルクを招集して正解だった。

ブレーメンの下部組織で育ったストライカーで、ニュルンベルクやハノーファーと多くのクラブを渡り歩き、2019年から再びブレーメンでプレイしている。ドイツ1部だけでなく2部でも経験もある苦労人で、一昨季は2部で19ゴール6アシストと得点を量産。チームを昇格に導いた。今季はブンデスリーガでもその勢いは衰えておらず、ここまで14試合で10ゴール2アシスト。ライプツィヒのクリストファー・エンクンクに続くブンデス2位の得点力を誇っている。そのエンクンクは現在負傷しており、FIFAワールドカップ・カタール大会後はこのフュルクルクがトップに立つかもしれない。

そういった活躍もあってハンジ・フリックはフル代表経験ゼロのストライカーを招集した。

親善試合のオマーン戦、敗れた日本戦、引き分けたスペイン戦とここまで3試合で起用されており、その中で2ゴールと決定力は高い。ドイツは日本戦で露呈してしまったように決定力不足に陥っていたが、このフュルクルクが答えになりつつある。

「ボールは足元にあったんだ。(体が)動いていたからコントロールできた。そのとき本能が動いたよ。考え込むより、そのほうがいい。ボールがネットを揺らしたのを見た時は嬉しかった」

スペイン戦で貴重なゴールを決めたフュルクルクは試合後、英『The Athletic』にゴールの瞬間について語っている。ジャマル・ムシアラからボールを奪い取るような形となったが、ストライカーが短いプレイタイムで仕事をして見せた。

フュルクルクの招集はドイツの絶対王者であるバイエルン・ミュンヘンでの出来事が影響していたようだ。バイエルンは以前までロベルト・レヴァンドフスキという絶対的なストライカーが所属していたが、今夏に退団。バイエルンはそこからストライカーなしの戦い方を模索したが、現在は9番タイプのエリック・マキシム・シュポ・モティングを最前線に置いて成功しており、それがフリックの考えを変えたという。実際にここまで2ゴールと貴重な得点を奪っており、次のコスタリカ戦でフュルクルクが先発することになってもおかしくない。