【識者コラム】グループ突破への運命の一戦、スペイン戦の「攻略ポイント」を考察

“森保ジャパン”はグループリーグ突破を懸けて現地時間12月1日(日本時間2日)、スペイン代表戦に臨む。下馬評ではブラジル代表やフランス代表に次ぐ優勝候補に位置づけられ、グループ初戦でコスタリカ代表に7-0で大勝。続くドイツ代表との一戦では終盤に追い付かれて1-1の引き分けだったとはいえ、相手のハイプレスを見事に外してドイツのゴールに迫る攻撃は地力の高さを感じさせた。

 確かなのはドイツのようなハイプレスをかけていくのはかなり無謀だということ。ただ、全くプレッシャーをかけずに自陣に引きこもると攻め込まれるので、コンパクトなブロックを維持したまま、機を見て前にプレッシャーをかけて行くディフェンスが生命線になるだろう。

 システムは4バックか5バックかという選択になる。もちろん5バックというのは流れの中で3バックにもなるが、4-3-3のスペインがウイングかサイドバックを高い位置に張らせてくるので、基本は5バックで外側を見ないと常にフリーにしてしまうので、スペインに対しては3バック=5バックと言い切っていいだろう。

 5バックというとうしろ向きの選択に聞こえやすいが、欧州での1つのトレンドになっているように、中央、左右のアウトサイド、ハーフスペースと呼ばれる中央の脇という5つのレーンを埋めながら前に押し出していく5バックは中盤でプレッシャーをかけやすい。

 筆者は大会前からスペイン戦は5-4-1を推奨している。ただ、左右のサイドハーフは大外に構えるのではなく、もう少し絞ったポジショニングで、スペインのサイドバックがインにポジションを取りにくようにして、中盤の3枚を孤立させたい。

 固定の5-4-1だと中盤は数的不利になるが、インに絞ることで、アンカーをワイドに流れにくくして、パスコースや行動範囲を制限できる。アンカーの主力であるMFセルヒオ・ブスケツが警告を1枚もらっており、ラウンド16での出場停止を回避するために“温存”するのではないかという声も上がる。

 その場合はセンターバックを担うMFロドリが中盤に上がるだろう。どちらにしても2列目を追い越してドリブルを仕掛けることがあまりないので、アンカーに厳しく行き過ぎなくても、インサイドハーフの2人をタイトに抑えれば、そんなに振り舞わされることもない。

 インサイドハーフは2試合続けてスタメンのMFガビ、MFペドリも、ベンチスタートになる可能性はある。MFカルロス・ソレールやMFコケなど、スペインの中盤は誰が出ても質が高い。ただ、ボールを持っての個人での高い力や危険性という部分ではペドリとガビのコンビが最も怖いので、ここをメンバーチェンジしてくれるのは少しありがたいかもしれない。

スペインが狙うのは、ライン間やセンターバックとサイドバックの間に生じるスペース

 スペインのルイス・エンリケ監督や前日会見に登壇したGKのウナイ・シモンは日本のディフェンスを「ハイブロック」として警戒している。つまりは4-4-2のコンパクトなブロックを組んだまま、最終ラインを押し上げて、機を見てスイッチを入れていくやり方だ。東京五輪の準決勝でスペインと対戦した時の基本的な守り方だが、4-4-2はスペインのようなワイドにボールを握れるチームが相手になると、6バックになってしまいやすい。

 1つの方法としては4-4-2と4-1-4-1を守備の高さに応じて使い分ける方法だが、森保一監督が率いる日本はそこまでフレキシブルな可変式のディフェンスをやってきていないので、ここでトライするにはリスクがある。それならばできるだけ4-4-2で我慢して、本当に苦しい時は6バックで耐えて、押し戻せるタイミングを待つというプランのほうが現実的かもしれない。筆者としてはやはり5バックを固めて、じわじわプレッシャーをかけて行く方法が継続的に守れる方法と見ている。

 大事なのはスペインのパスワークに付き合い過ぎないこと。正確にパスをつなぎながら、ドイツ以上に目まぐるしくポジションを変えてくるが、真面目に対応しようとするほど、1つでも外されると背後を取られて、無理にカバーしようとして、必要以上に体力を消耗させられる。スペインは多彩にボールを回しても、結局はライン間やセンターバックとサイドバックの間に生じるスペースを狙ってくる。ボランチが危険なコースは切りながら、やや強引に通そうとしたところを引っ掛けたい。

 スペインが一番チャンスになるのは一度ボールを失った瞬間に即時奪回したところから、ディフェンスのズレを突いてのフィニッシュだ。左ウイングの主力であるFWダニ・オルモなどはこれが抜群にうまい。スペインがボールを握る時間が長いために、ボールを奪えた時に余裕がなく、的確な判断ができないというのが一番まずい。ただ、スペインのプレスを外せれば一気にスペースでボールを運んでチャンスにすることができる。

 90分の中ではボールを握れる時間も所々であるはずなので、そこでいかに勇気を持って攻勢をかけるかも重要だが、基本はカウンターからの少ないチャンスを決め切りに行くなかで、MF伊東純也などアタッカー陣が、スピードを発揮できるか。スペインのルイス・エンリケ監督にはブラジルと準々決勝での激突を避けるため、意図的にランナーアップ(2位通過)を狙っているのではという質問がスペインのメディアから出たが否定していた。

 日本も他会場の結果によってはスペインと引き分けても突破できるが、基本は勝ちに行くしかない。一方のスペインは引き分けで突破が決まるので、80分過ぎで同点なら試合をそのままクローズしにくる可能性もある。ただ、そうした状況に“落とし穴”があるのは日本もコスタリカ戦で味わった。無失点を続けながら、後半早い時間までにリードできれば理想だが、焦りから中途半端なところでボールを奪われて、ショートカウンターで仕留められないようにしたい。(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)