【ドイツ発コラム】「『他人の話を聞く』というのは確かな能力」とも指摘
日本代表が現地時間11月23日、カタール・ワールドカップ(W杯)グループリーグ初戦でドイツ代表を2-1で下した。ドイツの人たちはどんな反応を見せていたのだろうか。ドイツで長年育成指導者をしているクラウス・パプストに引き続き話を伺った。パプストはブンデスリーガクラブ1.FCケルンで長年育成指導者、そして育成統括部長を務めた人物だ。
日本代表で印象に残った選手を尋ねたところ「日本代表というチーム」という答えが返ってきた。
パプスト「誰が特別にすごかったというのは正直ないんだ。チームとしての素晴らしいパフォーマンスが印象に残った。私のクラブには毎年のように日本人指導者がいるけど、私は彼らのことが好きなんだ。日本人選手も好きだ。『リスペクトの精神』『規律正しさ』が好きなんだ。あと例えばだけど、日本人が標準装備している『他人の話を聞く』というのは確かな能力だと思う。
今、うちに練習参加している日本人の選手が1人いる。ドイツ語はもちろんまったくだけど、みんなにすごく好かれている。テクニックがあるし、機敏な選手だ。みんなが彼と一緒にプレーしたがる。とてもフレンドリーで、リスペクト精神にあふれている。そしてこれこそ、私たちが日本から学ばなければならない大事な要素だと思うんだ。
ドイツ戦後に日本代表が控室を完璧にきれいにした映像がネットで話題になっているけど、これもそうだよ。うちのクラブでも選手や指導者には何度も言っているけど、毎日必ずどこかにごみが落ちている。それを毎日私が掃除しているんだ。こうしたことを小さいことだと思う人もいるかもしれないが、ピッチ外の心の乱れはピッチ内で現れるものだ。規律正しいとは自律を意味するからだ。
もっとたくさんのドイツ人が他国の様々な事実を目の当たりにした方がいいと思う。サッカーが強いかどうか、盛んかどうかが大事なんじゃない。他国の文化を見て、どんな生活なのか、どんなサッカーなのかを体験してほしい」
来日時のサッカークリニックでは片付けのスピードの驚き
僕がU-13、U-19で監督を務めるフライブルク郊外にある地域クラブSCホッホドルフの育成部長も、僕らの指導者チャットにまさに試合後の日本代表控室の写真とそれに関する記事をアップし、「これ素晴らしくないか?? 僕らもクラブとしてこうしたことをやろうじゃないか」というメッセージを送ってしてきた。W杯を通じて、互いにいいところを影響し合えるチャンスがある。素敵なことではないか。
パプスト「自分の尺度では分からないことが世界にはたくさんあるんだ。例えば日本で驚いたのは、とあるテニスの人工芝でサッカークリニックをした時の話だ。テニスネットをどけてゴールを設置してトレーニングをするんだけど、『次のグループがくるから時間通りに終わらないといけないんです。だから3分前には終了して下さい』ってスタッフに言われたんだ。
私は『3分じゃ無理だろ?』と思ったけど、本当に3分で見事に元通りにしていた。全ての子供たちは練習が終わるや否や自分の荷物を片付けて、すぐに帰り支度を済ませていた。ドイツだったら考えられない。誰かしら水を飲んだり、靴ひもを結んでいたり、まだボールを蹴ろうとしている子がいたりするものだ。日本ではみんながやらなきゃいけないことを分かっている。そうした違いを私たちは見なければならない。なぜ日本があそこまで規律正しくプレーできるのかを知らなければならない」
「規律正しい」への傾向が強くなりすぎると、言われたことをやるだけの人間になってしまうと揶揄される。そして自分で考えることの大切さが議題にあがる。いつ、どこで、何を、どのようにすべきかを子どもたちが考える機会を持つことは極めて重要だ。強制や抑制がきつくなると、それは心の成長に問題をもたらすこともある。
でもそれがために、本来やるべきこと、やらなければならないことをやらなくてもいいとなると本末転倒になる。やるか、やらないかではない。規則正しさとは、自律して取り組む姿勢を身に着けるところに意味があるのではないだろうか。
「日本人のそうした姿勢に常に感銘を受けている」というパプストの話からはそんな大事なテーマについて考えさせられた。(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)