スペイン戦を控える選手が短い取材に応答

　前日練習後のミックスゾーンには、独特の空気が流れる。カタール・ワールドカップ（Ｗ杯）を戦っている日本代表は、現地時間11月30日にグループＥ第3節のスペイン代表戦に向けたトレーニングを行い、約1時間の練習後には7名の選手が記者団の取材に応じた。

　試合2日前からは国際サッカー連盟（FIFA）の規則の関係で、メディアが練習の様子を見られるのは冒頭の15分のみ。その後はトレーニングが終わるまで、報道陣はメディアセンターで待機。練習終了後にメディアセンター内にあるミックスゾーンで、選手のコメントを聞くことになる。

　見えていない練習内容、試合に向けた戦術、布陣や先発メンバーの手がかりを少しでも探ろうとする報道陣と当然、あからさまにすべてを話せない選手たちの駆け引きが行われる。代表経験の少ない選手がポロっと先発メンバーの名前をこぼしたり、経験豊富な選手は冗談を交えて質問をかわしたり、きっぱりと「それは言えません」と言う選手もいる。

　スペイン戦の前日、ほかの選手が約10分程度の取材に応じたなかで、ピリピリと、ただならぬ雰囲気を醸し出したのがMF久保建英（レアル・ソシエダ）だった。冒頭で心境を聞かれた久保は「コンディションは良いと思います」と短く答えると、スペイン戦に向けて周囲からの期待も高まっているが？という問いに「口だけの選手になりたくないので、できればあんまりしゃべりたくないですね、今は」とコメントした。

　その後も、相手の言葉が分かることのメリットを問われても、「分かったところで止められなかったら、何の意味もないので」と一蹴。スペイン戦に向けた思いを聞かれても、「やっぱりここで口だけの選手になりたくないので。出場チャンスがあれば、ピッチ上で語れるような選手になりたいと僕は思います」と答え、心境も「落ち着いていますね。別に焦っても試合は明日なので、良い準備をしていければいいかなと思います」と必要最小限の言葉で返した。

　スペイン戦では、勝てば決勝ラウンド進出、負ければ敗退が決まる。引き分けの場合は、やや事情が異なるが、自分たちの結果次第で決勝トーナメント進出を決められる点では、試合に集中しやすい状況にある。勝点3にフォーカスしやすい状況について問われた久保だが、ここでも「勝点3にフォーカスできない選手は、明日の試合に出るべきではないし、それがプロだと思う」とピシャリ。少し間ができたところで、「大丈夫ですか？」と言い、スペインメディアやテレビの取材へ向かって行った。

　試合に向けて集中しているのか。それとも、メンバー落ちした苛立ちなのか。振り返れば、先発出場したドイツ戦の前日のミックスゾーンでも、久保はピリピリとした雰囲気を醸し出していた。出場しなかったコスタリカ戦では、もう少しリラックスした状態で受け答えをしていたと記憶している。ということは、おそらく…。

　スペイン戦に向けて、連日、スペインメディアも久保の動向を追いに日本のトレーニングキャンプを訪れた。彼らには「人生で最大の試合になる」とも語っていた久保。初戦のドイツ戦では前半45分のみの出場で不完全燃焼に終わっているだけに、ピッチ上で持てる力のすべてを発揮し、試合後にはミックスゾーンで笑顔を見せてもらいたいところだ。（FOOTBALL ZONE特派・河合 拓 / Taku Kawai）