【識者コラム】後半早々の2得点で逆転に成功、激しいプレスが功を奏す

 日本代表は現地時間12月1日のカタール・ワールドカップ(W杯)グループリーグ第3節でスペイン代表と対戦し、2-1の逆転勝利。強豪ドイツ代表、スペインを抑えグループEの1位で決勝トーナメント進出を決めた。かつてアジアサッカー連盟の機関紙「フットボール・アジア」の編集長やPAスポーツ通信のアジア支局長を務め、カタール大会でW杯を7大会連続で現地取材する英国人記者のマイケル・チャーチ氏が一喜一憂した試合内容を振り返り、勝因を考察している。

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 死亡記事を書かなければならないところだった。FWアルバロ・モラタの前半11分のヘディングシュートは、満足のいかないカタール・ワールドカップ(W杯)に対する深い自己分析を行う間もないまま日本を帰国させる運命へと導こうとしていた。

 だが、それから信じられないようなことが起きて、日本は生き返った。我々はまたも後半のパフォーマンスに興奮し、喜び、そして、祝った。驚くべき勝利で、これは奇跡だ。ただの勝利ではなく、グループEの首位通過と2018年ワールドカップ準優勝のクロアチアが待つベスト16進出を決めたのだ。

 しかし、一体何が起きたのだろうか? コスタリカ戦の惨敗の後、誰もこの結果を予想していなかった。あの試合のパフォーマンスにはポジティブ要素が何もなく、スペイン優れた相手との試合に臨む自信を持つ理由もなかった。

 少なくとも森保監督は、不必要な戦術変更をしたコスタリカ戦の後で先発メンバーの多くを復帰させるだけの良識は持っていた。さらなる戦術的な変更は、おそらく相手を翻弄するためのものだったのだろうが、それはスタジアムの多くの観客の頭を悩ませるだけのものとなった。

 前半はまずまずのスタートを切り、前田大然や久保建英が忙しく動き回った。しかし、スペインが主導権を握ってリードを奪うのに時間はかからなかった。ボールは回転木馬の上にあり、サムライブルーはボールが回転するのを見てめまいを起こし、相手に近づくことさえほとんどできなかった。

 アトレティコ・マドリードのモラタが決めたヘディングは完璧な一撃だったが、一方で日本の3人のセントラルディフェンダーはどこに行ってしまったのかは誰にもわからない。

 しかし、日本は選手起用の意図を少しずつ見せていた。特に前田のウナイ・シモンとアンカーのセルヒオ・ブスケッツへの激しいプレスは、森保監督が考えるスペインの弱点を浮き彫りにしていた。

 そして、スペインのもう1つの弱点は、1点のリードで安心しようとする姿勢だった。ルイス・エンリケ監督と選手たちはドイツの失敗から学んでいなかったのだ。

ハーフタイムの交代は今大会の森保Jの定石

 後半45分に大きな変化をもたらすハーフタイムの交代は森保監督のトレードマークになりつつある。ドイツ戦と同じく、このスペイン戦でも三笘薫と堂安律の投入で流れが日本側に傾いた。そのなかで先制点の条件を整えたのは、最終的に浅野拓磨と交代する前田だった。

 セルティックのFWのプレスがシモンのキックミスを誘発し、そこから伊東純也が頭で堂安へつないだ。フライブルクの男が放った強烈なシュートをシモンは防ぎ切れなかった

 2点目はさらに思いも寄らないものだった。鍵になったのは三笘のスピードと絶対に諦めない姿勢。三笘はゴールライン上のごくわずかな差でボールを生かした。田中の至近距離でのフィニッシュはケーキの上の飾りだった。

 爽快な勝利だった。コスタリカ戦でおとなしく、無気力なプレーをしたのと同じチームだとは到底思えなかった。このチームがハンドブレーキを解除してプレーする時、それは滅多にないことだが、驚くべき力を発揮する。

 予想通りスペインが圧倒的にボールを保持し続けたが、その後は日本の守備を突破することはできなかった。終盤に権田が見せた2つのセーブと吉田のクリアは最悪のプレッシャーを和らげた。

 ドーハの亡霊と29年前に森保監督と彼のチームメイトに訪れた悲劇はようやく眠りについたのだ。日本のサムライ・スピリットが勝利し、ワールドカップの夢はまだ続く。この先ではルカ・モドリッチが待っている。(マイケル・チャーチ/Michael Church)