2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!

■ラウンド16へ突入

 開幕戦から毎日2試合ずつを観戦するという苦行を貫徹。グループリーグ最終日の12月2日までの13日間に無事25試合を観戦した。こんなに濃密な観戦体験はもう二度と経験できないだろう。

 ところが、FIFAは、なぜかノックアウト・ステージでは1日1試合しか申請を認めてくれないのだ。スケジュールは18時開始と22時開始と、グループリーグの3巡目と同じなのに、である。

 というわけで、ラウンド16を前に選択の作業を強いられた。

 ラウンド16の3日目と4日目は選択の余地がない。3日目は日本代表の試合があるからだ。まさか、日本の試合を捨ててブラジル対韓国を見に行くということはありえない。

 将来、日本がベスト4の常連にでもなれば、「まあ、ラウンド16は見なくていいか」と思うようになるかもしれないが。

 そういえば、1986年のメキシコ大会の時、西ドイツ(当時)の試合をやっているのと同じ日にドイツ人が別の試合を見に来ていたので、「ドイツの試合は見なくていいの?」と訪ねたら、「まあ、準々決勝以降を見ればいいさ。準々決勝に残れないようなチームなら見なくてもいいし」と言われてしまった。

「ううん、たしかに西ドイツはベスト4の常連だからなあ」と、まだワールドカップに一度も出たことがなかった極東の島国の人間には返す言葉もなかった。

 今は昔の話である……。

 ちなみに、僕は今回はさまざまな事情があって、12月6日の夜の便で帰国することにしている。従って、飛行機に間に合うようにするには4日目は18時の試合を見るしかないのだ(万一、日本がさらに勝ち上がってきたら再びカタールまで来るつもりだ)。

■痛恨の選択ミス

 というわけで、選択を迫られたのはラウンド16の1日目と2日目だった。

 1日目はオランダ対アメリカか、アルゼンチン対オーストラリアかという選択だった。

 アルゼンチン好きとしてはアルゼンチンの試合を見たかったのだが、アルゼンチンはグループステージですでに3回見ている。

 一方、オランダの方はこの大会でまだ1回も見ていなかったのだ。そこで、僕は1日目はオランダの試合を選択した。

 だが、どうも、この選択は失敗だったようだ。

 オランダ自体は悪くなかった。両サイドを使ったワイドな攻撃は力強く、右ウィングバックのデンゼル・ダンフリースが1ゴール2アシストの活躍を見せた。

 ところが、試合としてあまり面白くなかったのは、アメリカがあまり抵抗できなかったからだ。

 アメリカは、ワールドカップのラウンド16に何度も勝ち上がったことのある中堅国だ。しかし、ベスト8に勝ち上がったのは2002年の日韓大会だけ。あとは、ラウンド16で敗退と、日本代表と同じような状況にある。

 今大会のアメリカは、チェルシーのクリスチャン・プリシッチやACミランのセルジーニョ・デストなどヨーロッパの強豪クラブで活躍する選手も多く、かつての「ただただ真面目にプレーするだけ」というイメージからは打って変わって、イマジネーションも豊かでフィジカル能力も高いチームになっていた。それで、「オランダ相手にどれくらいできるだろうか」と期待していたのだが、ちょっとプレッシャーをかけられるとすぐにボールを後ろに戻してしまうヘタレな試合をしてオランダの楽勝を許してしまった。

 これが、「ラウンド16の壁」というものなのだろうか。