カタール・ワールドカップは、ノックアウトステージに入った。ここに至るまでの道のりではさまざまなことが起きたが、統計立てると見えてくるものがある。大陸ごとの戦いぶりという物差しで、サッカージャーナリスト・後藤健生がサッカー界の地殻変動を考察する。

■北米2か国のポテンシャル

 最後に、アジア以外の地域についても簡単に見てみたい。過去3大会の大陸別ラウンド16進出国数の数字を示しておく。

2022年 欧州8  南米2 アフリカ2 アジア3 中北米1
2018年 欧州10 南米4 アフリカ0 アジア1 中北米1
2014年 欧州6  南米5 アフリカ2 アジア0 中北米3

 一つ、注目はカリブ海中北米(CONCACAF)の代表国だ。

 アメリカについては先ほど述べたように、組織がきちんとしたチームだが、柔軟性や発想の豊かさに欠けるきらいがある。「ヨーロッパの中堅国なみ」ということができる。

 また、「36年ぶり」と久しぶりのワールドカップとなったカナダは3戦全敗に終わってしまったが、若くてスピードもテクニックもある若い選手がそろっていた。しかも、走りのコース取りの面でもよく組織されており、やはり若返りの途上にあるアメリカとともに、2026年ワールドカップでは、開催国として活躍できるように思えた。

 振るわなかったのは南米勢。“ホーム”だったブラジル大会ではなんと5か国が勝ち残り、ロシア大会でも4チームが勝ち残っていたが、今大会はラウンド16に勝ち残ったのはブラジルとアルゼンチンだけという結果に終わった。

 そして、アフリカ勢は前回大会では1か国も勝ち残れなかったが、今大会は8年前と同じ2か国がようやく勝ち上がった(ともにフランス語圏のモロッコとセネガル)。1990年代には、ヨーロッパ、南米に次ぐ勢力であり、「いずれはアフリカから優勝国が出る」と言われていたが、このところアフリカ勢は伸び悩んでいるようである。

■内向きになった欧州の失敗

 2018年に、ヨーロッパ・サッカー連盟(UEFA)は「ネーションズリーグ」を発足させた。その結果、ヨーロッパ大陸以外の国がヨーロッパの代表チームと親善試合を戦うことが非常に難しくなってしまった

 ブラジルやアルゼンチンのような強国でさえ、ヨーロッパと対戦するのが難しくなり、ワールドカップ前の強化のために大切な時期に、日本や韓国と親善試合を戦うことになってしまったのだ。

 ヨーロッパが域内の強豪同士で切磋琢磨する一方、他大陸の国々がヨーロッパの強豪と対戦する機会を奪われたため、代表チームレベルでヨーロッパと他大陸の間の実力差が、従来以上に開いてしまうのではないかとも言われていた。

 ところが、実際にワールドカップが幕を開けてみると、ヨーロッパ勢が他大陸のチームに足をすくわれるケースが多発したのだ(その中でも、最も衝撃的だったのが、ヨーロッパの伝統国だったドイツとスペインが、相次いで日本に逆転負けを喫した事実だった)。

 ヨーロッパがアジア諸国との対戦で気持ちを集中できなかったということもできる。そして、他大陸のチームがヨーロッパの強豪と対戦することが難しくなったのと裏腹に、ヨーロッパ諸国も他大陸のチームと対戦する機会がなかったために、他大陸の進歩を肌で感じ取ることができなかったことが番狂わせにつながったのかもしれない。

 クラブレベルでも、代表レベルでも、また財政面でも競技面でも、現代のサッカー界は間違いなくヨーロッパが主導している。そして、往々にして彼らの「ヨーロッパ至上主義」が鼻につくこともある。そうした中で、ワールドカップという舞台で他大陸のチームがヨーロッパ勢に(あるいは南米勢に対して)一泡も二泡も吹かせることができたのは、ある意味で痛快な出来事だった。

 カタール大会で、ヨーロッパ以外の大陸からの代表が活躍したことは、“サッカー界の民主化”という面でも大きな意義があったのではないだろうか。