2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!
■番狂わせは起きる
大住さんは「負ければ即敗退のノックアウトステージでは『番狂わせ』が起こりにくい」とおっしゃったが、さっそく起こってしまった。スペインがモロッコにPK負け。スペインの得点力不足は思っていた以上に深刻だったようだ。
しかし、ノックアウトステージで「番狂わせ」が起こりにくくなるというのは一般的な事実ではある。
グループステージでは、優勝を狙っている国は7試合目まで見据えて戦っている。約1か月の長丁場を、最初から最後までフルコンディションで戦うのは不可能だから、優勝を狙うためにはノックアウトステージに入るころに照準を合わせ、グループステージでは辻褄を合わせながら乗り切りたいところなのだ。
とくに、今年のワールドカップはヨーロッパのシーズン真っ最中の11月に開幕し、開幕の前週末まで各国リーグ戦が行われていた。したがって、代表チームは準備不足のまま大会が始まってしまった。
■新興国も勝てる
だが、チームが集合してから3週間近くが経過してグループステージの3試合を通して各チームはチーム力が上がってきているはず。うまくリズムを上げてきたチームが優勝に向かうのだろう。ブラジル、イングランドは強さを維持しているし、一方アルゼンチンなどは試合とともに改善してきている。ドイツ、スペインは立て直しができないまま姿を消したということになる。
それでも、モロッコがやってみせたように、いわゆる「伝統国」以外の新興国がラウンド16を勝ち抜いて上のステージに進むことはけっして不可能なことではない。いや、各大会で1つや2つはそういうケースがあるのだ。
4年前のロシア大会では、開幕前は「開催国がグループリーグで敗退するかも」と言われていたが、ロシアは開幕戦でサウジアラビアを破って波に乗ると、ラウンド16ではスペインをPK戦で破って準々決勝に進出。準々決勝でもクロアチアと撃ち合いの末にPK戦で敗れた(ホームの利はあったが)。
その4年前のブラジル大会ではコスタリカ旋風が吹き荒れた。イタリア、イングランド、ウルグアイと優勝経験国3つを退けてグループステージを首位通過すると、準々決勝まで進んでオランダ相手にPK戦に持ち込んだ。もっとも、ラウンド16でコスタリカが破ったのはなんとギリシャだったのだから、彼らのラウンド16突破は多分に幸運に恵まれたものでもあった。
■壁は破るためにある
ちょっと古い話題だが、1994年のアメリカ大会では、本大会での勝利がまだなかったブルガリアがラウンド16でメキシコと対戦し、PK戦で勝利。さらに準々決勝でドイツを破って3位に入り、フリスト・ストイチコフは祖国の英雄になってしまった。
たしかに、伝統国を破ってのラウンド16突破は非常に難しいことだが、けっしてそういう例が皆無というわけではない。
日本がラウンド16突破に挑戦したのは今回で4度目だが、PK負けが2回。1点差の負けが2回。ほんのちょっとの幸運さえあれば突破していてもおかしくはなかったわけだ。
2018年大会ではベルギーと大接戦となった。日本が2点をリードした後、69分にフェルトンゲンのゴールで1点差に追い上げられたのだが、フェルトンゲンのヘディングはシュートを狙ったものではなかったはずで、日本にとっては不運な失点だった。あの1点がなければ、日本が逃げ切れていた可能性はかなりあったはず。
「幸運頼り」では情けないというのは分かるが、「ラウンド16の壁は破れない」などと決めつける必要はないのではないか。モロッコにできたことが、日本にできないわけはない。