2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!

■サッカーのプロ集団ではないFIFA

 次回、2026年のワールドカップは、アメリカを中心にカナダとメキシコが加わる初めての「3か国共同開催」の大会となるが、出場チーム数がこれまでの32から48に増えることで大きな時代の変化を迎えることになる。

 当初の発表では、48チームを3チームずつ16グループに分けてリーグ戦を行い、各組上位2チーム、計32チームがノックアウトラウンドに進出、「ラウンド32」「ラウンド16」「準々決勝」「準決勝」そして「決勝」と5つのラウンドをこなすことになっていた。

 しかしこれではリーグステージの試合順で大きな不公平が生まれる。「連戦」のチームが2つ、休養たっぷりで2試合目を迎えられるチームが1つとなるからだ。また、「3チーム中2チームが勝ち上がれる」という緊張感のない方式も大会の魅力をそぐだろう。こうした意見に、最近、大会方式の変更も検討され始めたという。

 考えられるのは4チームずつ12グループにする方法だが、各組上位2チームだとノックアウトステージは24チームで、また不公平が生じる。だが各組2チームに成績の良い8チームを加えて32チームにすると、非常に大きな問題に直面することになる。決勝戦までの試合数がこれまでより1つ多い8になってしまうことだ。

 欧州のクラブとの「黙約」で、ワールドカップは「1か月間、7試合」と決まっている。だから当初のように「16グループ案」が出てきたのだ。グループステージで2試合だけなら、「ベスト32」からのノックアウトステージ5試合と合わせ、7試合となる。12グループにして7試合で収めるには、各組1位と、2位のなかから上位4チームだけ、計16チームが勝ち上がり、ノックアウトステージは「ラウンド16」からということにしなければならなくなる。

 いずれにしろ、48チームのワールドカップは非常にばかげた案なのである。出場国を増やし、収入を増やすことだけに心を奪われてこの形に賛成した国際サッカー連盟(FIFA)の役員たちは、誰かがマジックを使い、公平で誰もが満足する大会方式を考えてくれると思っていたのだろう。それこそ、FIFAという組織がサッカーのプロ集団ではなく、別の目的をもった人びとの集まりであることの証明である。

■ワールドカップらしい緊迫した攻防

 さて、カタール大会は準々決勝まで終わり、「ベスト4」が出そろった。クロアチアがブラジルをPK戦で下し、モロッコがポルトガルを相手に本当に見事な試合を見せ、1-0で退けて勝ち残ったのは、正直なところ驚きだった。私も後藤さんもブラジルとともに優勝候補に挙げていたイングランドは、ここにきてぐっとチームがまとまったフランスに1-2で屈し、大会を去った。

 準々決勝の最後に行われた「イングランド×フランス」は、間違いなく、この大会の白眉だった。大会随一の戦術的熟練度を誇るイングランドは、いつもどおり精妙なポジショニングでボールを握った(支配率はイングランド50%、フランス35%、「五分五分」が15%)。しかしこれまでの試合では個人技にものを言わせるサッカーを展開してきたフランスが、この試合では見事なコンビネーションとチームのまとまりを見せ、キリアン・エンバペという大会随一の武器を有効に使って勝利を切り拓いた。

 フランスの見事さは、PKで同点に追いついて勢いに乗るイングランドの攻撃をしのぎつつオリビエ・ジルーが見事な決勝点を叩き込んだことだったが、イングランドもその直後にこの試合2つ目のPKを獲得、1本目を決めたハリー・ケインがこんどは大きく上にけり上げて失敗したものの、最後まで息をつかせない熱戦を展開した。

 勝者と敗者、準決勝に進む者と帰国しなければならない者と、明暗は大きく分かれたが、この大会で初めて「ワールドカップらしい」緊迫した攻防を見た気がした。勝利のために守るべきときには厚いブロックを敷いて守り、機を見て攻撃に転じるサッカーも見応えがあるが、互いに一歩も引かずに戦ったイングランドとフランスには、大いに敬意を表したいと思う。