W杯史上最大数のカードが飛び交ったオランダvsアルゼンチン戦。その理由は審判のコントロールだけではなかったようだ。一発触発の空気が、試合前から流れていた。
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試合前の監督のコメントなどはその前哨戦となる。
そこでオランダは仕掛けてきた。
「アルゼンチンは我々を恐れている」
「我々がボールを持っている間はメッシは怖くない」
「その時はむしろ(守備をしない)メッシは穴だ」
「PK戦になれば我々のもの」
「我々は良いサッカーをする」
彼らはボクシングの挑戦者がやるお決まりのポーズを、これでもかというほどW杯の準々決勝でやってきた。試合が始まってもそれは収まらず、選手もベンチ(と監督)も、アルゼンチンに対して執拗に「おしゃべり」を仕掛けてきた。
メッシのPKが決まった73分。メッシはオランダベンチに向かって、アルゼンチンの英雄であり大先輩であるリケルメお得意のポーズでメッセージを送る。
元来リケルメのこのポーズは、得点者が味方サポーターを鼓舞し、喜びを共有するときのもので、その意味は
「まだ歓声が足りないぜ?」
「もっと歓びの声を聞かせてくれよ」
「どうだい?俺のゴールは。喜んでいるかい?」
といったもの。
だが、メッシがオランダベンチに向かってポーズしたのは明らかに意味が違う。おそらく
「俺たちにおしゃべりは無意味さ」
「聞こえないぜ?」
「何かまだ言うことがあるか?」
そういうメッセージだったのだろう。
そしてもう一つ。オランダ監督のファン・ハールは、バルセロナ監督当時、マスコミを通じてリケルメを侮辱し、干したうえで、放出した張本人だったのだ。
メッシが初めてW杯出場を果たしたとき、リケルメはチームの大黒柱だった。当時のチーム関係者は「メッシはリケルメを、まるでイエス・キリストを見るような目で見ていた」と証言している。メッシにとって憧れの存在だったのだ。そのリケルメの気持ちを代弁したポーズだったのかもしれない。
「この意味は解るよな?」と。
PKで神懸かりなセーブを披露したGKのエミリアーノ・マルティネスは
「彼らは試合前にいろいろ話してくれて、それが僕らの導火線に火をつけた。オランダには『試合前にあれだけ喋ったら勝てるはずがない。おかげで僕らは強くなったよ』と伝えたという。
アルゼンチン監督、スカローニはこの試合をこう評した。
「とにかくメッシを怒らせないほうがいいんだ。そもそも苛立たせることもどうかと思うが。今日のようなプレーをさせるのはとても危険だよ」
サッカーの神様はこう言っただろう。「オランダよ。今日のようなサッカーではダメだ。勝者に値しないよ」と。
「美しく散る」ことで、人々の心を奪ったトータルフットボールの元祖オランダ。残念なことに今回は勝つための所業に固執し「フットボールの神様」からお叱りをうけ、「神の子メッシ」を怒らせ、そして散っていった。
「口は災いの元」という諺は、オランダにはないのだろうか?
(ABEMA/FIFA ワールドカップ カタール 2022)