先月20日に開幕したFIFAワールドカップ・カタール大会(カタールW杯)も、日本時間12月18日の3位決定戦と19日の決勝戦を残すのみとなった。ここまで期待に違わぬ熱戦が繰り広げられてきた中、予想を覆す戦いが多かったのは今大会の特徴だろう。
前評判以上の結果を残した象徴的なチームといえば、4強入りを果たしたクロアチア代表とモロッコ代表である。この躍進の原動力となった両チームの選手たちは早速、欧州ビッグクラブから大きな関心を寄せられており、今冬の移籍市場で争奪戦の末にステップアップ移籍を果たしそうだ。ここでは6名の注目選手を紹介したい。
ヨシュコ・グバルディオル
クロアチア代表:ライプツィヒ(ドイツ)
DFヨシュコ・グバルディオル。2002年1月23日生まれ。弱冠20歳ながらW杯の舞台で風格を漂わせる左利きの現代的センターバック(CB)。身長185cmの十分な高さと当たり負けしない強靭な体躯、さらに非凡なスピードと優れた攻撃センスを兼ね備える。今月9日のブンデスリーガの試合で鼻骨を骨折した後、フェイスガードを着用して臨んだ今大会では、グループステージ3試合からラウンド16の日本戦、さらにブラジル戦、アルゼンチン戦とここまで全6試合にフル出場。優れた危機察知能力で相手の攻撃をブロックすると、ボールを保持した際には自ら中盤までドリブルで持ち上がり、左足からの正確なパスで攻撃を組み立てた。
確かにメッシ相手には”手厳しいレッスン”を受けたが、今大会で最も名を上げたDFであることは間違いない。そして今大会の活躍によって、チェルシー、マンチェスター・シティのプレミア勢に加え、レアル・マドリード、バルセロナ、バイエルン・ミュンヘンといった錚々たるクラブが獲得へ本腰を入れる模様。1月のウィンドウで引き抜く可能性も模索されており、欧州メディアの報道によると、その移籍金は最低でも8000万ユーロ(約116億円)以上、争奪戦になれば1億ユーロ(約145億円)に達するのではないかと言われている。
ドミニク・リバコビッチ
クロアチア代表:ディナモ・ザグレブ(クロアチア)
GKドミニク・リバコビッチ。1995年1月9日生まれ。前回ロシアW杯時はメンバー入りも未出場だったが、今大会は背番号1の正GKとしてベスト4進出に大きく貢献。鋭い反射神経と身長188cmに備わった長い手足を駆使し、ブラジル戦では枠内シュート11本を浴びながら延長を含めた120分間を1失点で乗り切った。そして何より、PK戦で圧巻のセーブを連発。ラウンド16の日本戦で4人中3人をストップすると、続くブラジル戦でも最初のキッカーのロドリゴのシュートをセーブ(4人目のマルキーニョスはポスト直撃)。W杯1大会での最多タイのPKストップ数「4」を記録した。
その傑出したパフォーマンスと同時に驚くのが、これまで国内クラブのみの所属で世界的には無名の存在だったということ。データサイト『Transfermarkt』による現在の市場価値は、南野拓実の1000万ユーロ(約14億5000万円)よりも下の850万ユーロ(約12億円)で、SNS上でも「なぜ27歳になるまで見つからなかったのか?」と驚きの声が多い。だがカタールの地で発見された今、イタリアの複数チームに加えて、エドゥアール・メンディ、ケパ・アリサバラガに代わるGKを探しているチェルシーも触手を伸ばしているとの報道があり、移籍金の安さもあって今冬にも移籍が成立する可能性が大いにある。
ボルナ・ソサ
クロアチア代表:シュツットガルト(ドイツ)
DFボルナ・ソサ。1998年1月21日生まれ。身長187cmの恵まれた体格と粘り強い守備だけでなく、恵まれたスピードで攻撃に参加し、左足から“ベッカム級”とも評される精度の高いクロスを繰り出す左サイドバック。グループステージの3試合にフル出場した後、日本戦では体調不良で出場停止だったが、続くブラジル戦では攻守において高い存在感を発揮し、改めて能力の高さを示した。EURO2020直前にドイツ代表への鞍替えを表明しながらFIFAの規約に抵触したために断念してクロアチア代表に“復帰”した騒動があったが、今大会の活躍で禊を済ませただけでなく、さらなるステップアップへの足掛かりを掴んだと言える。
2018年5月にシュトゥットガルト(ドイツ)と5年契約の移籍金600万ユーロ(約8億6000万円)で加入したが、クラブは今冬の移籍市場でソサの売却を望んでいるとされ、売却額は1500万ユーロ(約21億5000円)から2500万ユーロ(約36億円)と予想。すでにインテルが高い関心を示しており、チェルシー、トッテナム、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッドのプレミア勢も興味あり。カタール経由で新たなクラブに旅立つ可能性は高い。
アゼディン・ウナヒ
モロッコ代表:アンジェ(フランス)
MFアゼディン・ウナヒ。2000年4月19日生まれ。今年1月のアフリカ選手権でA代表デビューを飾ると、今大会では背番号8を背負い、準決勝までの全6試合にスタメン出場。インサイドハーフとして攻守に高いインテンシティーを発揮しながら豊富な運動量でピッチを動き回り、アフリカ勢初の4強入りに大きく貢献した。特にラウンド16のスペイン戦では両チーム最長の14.7kmを記録し、相手指揮官のルイス・エンリケ監督からも称賛された。
このMFの価値を高めるのが、まだ22歳という年齢。推進力のあるドリブルも含め、今大会での活躍はセンセーショナルであり、スペイン紙『ムンド・デポルティーボ』によるとバルセロナが興味を示し、フランス紙『レキップ』によると具体的にレスターが総額4500万ユーロ(約65億円)のオファーを用意しているとした。2年前まではまったく無名。2021年夏にアンジェ(フランス)に加入して好プレーを披露していたが、チーム自体は現在リーグ・アンの最下位。クラブの規模的にも今冬のステップアップ移籍は確実だ。
ソフィアン・アムラバト
モロッコ代表:フィオレンティーナ(イタリア)
MFソフィアン・アムラバト。1996年8月21日生まれ。オランダ出身の26歳。背番号4を背負い、「3つの肺がある」と言われるほどの豊富な運動量でモロッコ代表の中盤に君臨。DFラインの前で鋭い読みと激しいタックルで防波堤の役割を完璧にこなし、ベルギー、スペイン、ポルトガルといった強豪の猛攻を跳ね返し続けた。その上でカウンターの起点として的確なパスを前線に配給。敗れた準決勝フランス戦でも、リーダーシップを発揮しながら最後まで走り続け、ワールドクラスの実力者であることをピッチ上で証明し続けた。
キャリアを振り返ると、前回のロシアW杯に出場した後、クラブ・ブルッヘ(ベルギー)からヴェローナを経て、現在はフィオレンティーナでプレー。同クラブ加入の際には1800万ユーロ(約26億円)の移籍金が支払われ、現在の移籍金の設定額は3000万ユーロ(約43億円)とされる。だが、今大会での大活躍で、バルセロナ、アトレティコ・マドリード、リバプール、アーセナルといったビッグクラブから関心を示されており、移籍金の額をさらに上がる可能性あり。それでも「獲得する価値あり」として争奪戦に発展することになるだろう。
ハキム・ツィエク
モロッコ代表:チェルシー(イングランド)
MFハキム・ツィエクに関しては、ステップアップとは言わないだろう。1993年3月19日生まれの29歳であるということだけでなく、すでにアヤックス時代にブレイクを果たし、現在はプレミアリーグの名門チェルシーに所属しているからだ。だが、現在の立場は「控え」。その役割の中でも昨季はリーグ戦38試合中23試合に出場したが、今季は14試合を終えた段階で5試合(スタメン1試合)の出場のみ。プレータイムは147分しかなく、出場機会の確保に苦しんでいる。
モロッコ代表ではヴァヒド・ハリルホジッチ前監督の解任劇の原因となったが、ワリド・レグラギ新監督の下で臨んだ今大会では準決勝までの全6試合にスタメン出場し、右ウイングの位置で持ち前の技術とアイデアを存分に発揮。繊細な左足タッチからの鋭いドリブル突破と正確なシュートで“違い”を見せ、自らがワールドクラスの実力者であることを再証明した。
この活躍に多くのクラブが関心を寄せ、特にミランが熱心。イタリア各紙によると、今冬の移籍市場で買い取りオプション付きのレンタルでの獲得を望んでいるようだ。一時は本人もミラン入りを熱望していたとされ、今大会の活躍で両クラブの交渉が一気に進むことになるか。それともミラン以外のクラブがツィエクの実力を再評価し、急転直下の移籍決定になるか。少なくとも、普段からこの男を「もっと見たい」と思う者は、確実に増えたはずだ。