「一つ言えることは、本当に僕個人のパフォーマンスが良くなかった。チームに迷惑をかけたことを含めて、こういう大事な試合でパフォーマンスを発揮できない自分に苛立ちしかないですし、感情の整理をつけるのが難しいです」

 FIFAワールドカップカタール2022ラウンド16のクロアチア戦。ご存じの通り、PKの末に敗れた日本は4度続けてW杯8強の壁に跳ね返された。この一戦にフル出場しながら勝利に貢献できなかった冨安健洋は試合後、どうにもならない悔しさを吐露していた。

 日頃、冷静沈着で感情を表に出すことの少ない24歳の大型DFがここまで苛立ちや失望感を人前で表すのは、プロキャリア初かもしれない。日本国内ではドイツ、スペイン戦の勝利に対し、最大級の賛辞が贈られているようだが、ケガの影響もあってフル稼働したくてもできず、結果を残せなかった選手の胸中は複雑だ。

「今大会はトップパフォーマンスを出せた試合はなかった。ケガを含めてホント、嫌になりますね。自分は何をやっているんだろうという気持ちが強い分、どうしたらいいんだろうという感じです」と彼は吐き捨てたのだ。

 19歳だった2018年10月のパナマ戦で初キャップを飾った頃、冨安がここまでケガを繰り返すようになるとは誰1人、想像しなかったはずだ。2019年アジアカップで酒井宏樹、吉田麻也、長友佑都とともに最終ラインを形成。「吉田以上の存在感を示した」と評された逸材だけに、グングン成長してカタールの地で日本の壁に君臨すると目されるのも、当然のことだった。

 実際、順調な軌跡を辿った。当時所属していたシント・トロイデンから2019年夏にボローニャへステップアップ。2021年夏にはアーセナルまで昇りつめた。その名門でもサイドバックやセンターバックなど複数ポジションで使われ、プレーの幅を広げていた。「冨安がいれば、日本の守備は安心」といった見方をされるほど、彼は重要な存在になっていったのである。

 ところが、2022年のW杯イヤーを迎えた途端、右ふくらはぎを痛めて欠場を繰り返すようになる。もちろん代表にも参戦できず、最終予選の終盤4戦を棒に振った。6月シリーズもチームに帯同したがリハビリのみで、9月シリーズのアメリカ戦で10カ月ぶりに復帰。森保一監督や吉田を安堵させた。しかし、続くエクアドル戦は試合前にクラブ事情で離脱。状態を懸念されたのだろう。

 その不安が大会直前にも起こり、11月3日のチューリッヒ戦で右太ももを負傷。11月中旬のカタール入り後も別メニューが続いた。急ピッチで回復に努め、初戦のドイツ戦では後半から3バックの一角に入って歴史的勝利に貢献したのもつかの間、ここからまた全体練習に合流できなくなってしまったのだ。

 コスタリカ戦は欠場し、スペイン戦は何とか終盤出場。右ウイングバックに陣取ってジョルディ・アルバの攻め上がりを阻止する大仕事をこなし、やっと頭から出られる状態に戻ったかと思われた。しかし、クロアチア戦では前半から不安定さを露呈。不用意なミスパスからイヴァン・ペリシッチに決定機を作られ、後半には自分と伊東純也の頭を越されてペリシッチに失点。万全の状態でないのは誰の目から見ても明らかで、本来の冨安からは程遠い状態だった。

 高い理想を追い求める24歳の大型DFが自らに苦言を呈するのもよく分かる。森保ジャパンでずっとコンビを組んできた大先輩の吉田に対しても「麻也さんは選手としも人としても僕を大きく成長させてくれた人。教わったことを表現できなかったという意味では本当に申し訳ない」と反省しきりだった。

 この先、吉田とコンビを組める保証はない。ゆえに、彼はこれまで以上に強い自覚を持って日本の守備陣をリードしていかなければならない。初のW杯での大きな挫折とどう向き合っていくべきか。冨安は今一度、それをしっかりと考えた方がいい。

「ケガ? 良くないサイクルなんだろうなと思いますし、どこかで断ち切りたいです」と冨安はまずフル稼働できるコンディションを取り戻したいと熱望している。超過密日程のアーセナルにいれば、じっくり自分の体と向き合う時間的余裕はないかもしれないが、2026年北中米W杯でリベンジしようと思うなら、肉体改造は必須テーマだ。

 そのうえで、吉田のような強烈なリーダーシップを示せる選手になることが肝要だ。4年後の冨安は27歳。29歳になる板倉滉とともに最終ラインを力強くけん引していく必要がある。吉田や長友らベテラン勢がチームを鼓舞していた4年間とは確実に立場が変わる。そこに関しては今一度、強く自覚して、より器の大きなプレーヤーになる努力を払っていくべきだ。

「これから代表を背負っていこうと思うのなら、自分から発信したり、意見を言うことも大事。いずれは『闘将』になってほしい」とアビスパ福岡U-15時代の藤崎義孝監督も期待を寄せていた。それはサッカー関係者のみならず、日本中の人々の願いだ。

「もっともっと強くなります!」と本人もSNSで決意表明をしていた。荒々しく感情をむき出しにしたクロアチア戦を糧に、冨安にはDFとして人として、一回りも二回りも大きく成長していってほしいものである。

取材・文=元川悦子