国営ラジオ&テレビ局「HRT」の記者に訊く、クロアチアの強さの要因

 カタール・ワールドカップ(W杯)で快進撃を続けてきたクロアチア代表。前回大会のロシアW杯では準優勝に輝くなど、大舞台での勝負強さが際立つ。代表チームはなぜ、強さを発揮できるのか、クロアチアの国営ラジオ&テレビ局「HRT」のヴィキ・イヴァノヴィッチ記者に話を訊いた。

 日本でも話題になっているのが、試合後にズラトコ・ダリッチ監督が見せているお辞儀だ。日本代表の森保一監督も、ラウンド16のクロアチア戦(1-1/PK1-3)に敗れた後、ファンに頭を下げる姿が話題になった。一部では、ダリッチ監督が森保監督の影響を受けたのではないかとも言われたが、そうではなかったようだ。

「監督がお辞儀をするようになったのは、細かくは覚えていないが数年前からだ。彼はファンへの感謝、神への感謝、試合を見ているすべてのクロアチアのファンに向けた感謝を示し、頭を下げているよ。日本代表の監督も同じようにやっていたね。共通しているなと私たちも見ていた。でも、すべてのクロアチア人は、ああいうふうにはしない。大体が『ハロー!』と挨拶をするくらいだよ」

 前回大会で初の決勝進出を果たしたクロアチアは、今大会でも準決勝まで勝ち上がった。ラウンド16で日本に、準々決勝ではブラジル代表にいずれもPK勝ちで、準決勝まで勝ち上がった。クロアチア国内の様子についてイヴァノヴィッチ記者は「完全に誰もが夢中になっている」と教えてくれた。

「クロアチアの国民は、わずか380万人しかいない。キミがこれを想像できるか分からないけれどね。380万人しかいないが、誰もが夢中だ。99%の人が試合を見ている。残り1%の試合を見ていない人は、試合のストレスで見られない人だ。誰もが4年ぶりの決勝進出に向けて準備しているし、彼らが1位、2位、3位、4位のどの順位になったとしても、クロアチアのザグレブ国際空港には、みんなが集まって帰国を祝うことになるだろう」

 クロアチアは、なぜこれだけサッカーが強いのか。イヴァノヴィッチ記者は「私たちはサッカーに限らず、さまざまな競技にタレントがいる。国民の数は少ないが、バスケットボール、ハンドボール、陸上競技、ウォーターポロにも長けている。遺伝子的なものだ」と前置きをしたうえで、サッカーについて語った。

「特にサッカーでは、子供たちに対する取り組みが積極的だ。残念ながらほかの競技では、子供たちが少なくなっている。でも、サッカーは別だ。子供にクラブを見つけるのも一苦労なんだ。みんないっぱいだからね。小さなクラブでも、1つのチームが10歳以下のチームを4つ抱えるような状態になっている。誰もがサッカーをプレーしたがっている。つまり、遺伝子的にスポーツ面で優れた子供たちから、より能力の高い選手を選出できる状況がサッカーにある。それは1つの要因だと思うよ」と説いた。

「我々はレアル・マドリードと似ていると話しているんだ」

 前回大会では2度のPK戦と延長戦に、すべて勝ち、決勝に進出。今大会でもラウンド16と、準々決勝はPK戦を制している。精神面での強さについて聞くと、「私たちも『メンタルジャイアント』と呼んでいるんだ」と胸を張った。

「4年前のロシア大会でも、難しい試合が多かった。準決勝のイングランド代表戦は、前半を終えて0-1とリードされていた。でも『問題ない』と後半を戦い、勝利した。我々はレアル・マドリードと似ていると話しているんだ。レアルもUEFAチャンピオンズリーグを優勝した時、最高の状態ではなかった。マンチェスター・シティやリバプールに負けてもおかしくなかった。でも、彼らは勝った。そのメンタリティーを、ルカ・モドリッチがチームに加えてくれているんだと思う。今大会でも、延長戦でネイマールにゴールを決められた。それでも『よし、じゃあ今度は俺たちの番だ』とやり返して追い付き、PKで勝った」

 そのPK戦の強さについては「理由は分からない」と、首を振ったが、「おそらくメンタル面の強さと、あとは良いGKがいることだね」と言って、自分の着ているシャツを見せてくれた。着ていたのは、前回大会の正GKだったネヴェン・スポティッチが2018年のセネガル戦で着用したというユニフォームだった。彼の周りにいたクロアチア人記者は、全員がユニフォームを着ていたが、なんとすべて選手からもらった実使用ものだった。

「彼はロシアでのヒーローだった。そして今大会でゴールを守っている(ドミニク・)リヴァコヴィッチは、特にPK戦に強い。クラブチームでは、常にPKの練習に取り組んでいるし、その成果が出ているね」

 今大会の代表チームへの印象について尋ねると「これだけ自信に満ちたチームは、見たことがないよ。自信の塊だ」とイヴァノヴィッチ記者は言い、改めて母国のイレブンへの信頼を口にしていた。(FOOTBALL ZONE特派・河合 拓 / Taku Kawai)