2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!

■見事なフランスの戦いぶり

 ひとつお断りしておくが、私は「労働者タイプの選手」を「二級の選手」と言っているわけではない。

 アルゼンチンが生んだ1950年代の世界のトップスター、アルフレード・ディステファノのニックネームは、「サッカーの労働者」だった。彼は誰よりも走り、誰よりも汗をかいてチームの勝利のために戦った。105メートル×68メートルものピッチを90分間カバーし続ける「労働者」なくして、サッカーという競技は成り立たない。

 2連覇に王手をかけたフランスもまた、天才キリアン・エムバペのスピードと決定力を生かすために他の9人のフィールドプレーヤーが重い仕事を担っている。準決勝では、FCバルセロナの暴れん坊、右FWのウスマヌ・デンベレまで「労働者」役を果たしていた。

 モロッコが攻め込んだときも左FWのエムバペは戻らず、ワントップのオリビエ・ジルーと2トップのような形で前線に残っていた。その代わりに、デンベレが忠実に右サイドに戻り、守備に破綻をきたさないようにしていた。

 後半、モロッコがハキム・ジエシュを軸に右サイドにアシュラフ・ハキミ、アゼディン・ウナヒなどを送り込んで立て続けに崩した。するとフランスのディディエ・デシャン監督はオリビエ・ジルーを外してマルクス・テュラムを左FWに入れ、エムバペをCFのポジションに移した。右のデンベレと同様にテュラムが懸命に守備で働いたため、モロッコも攻勢を維持することができず、フランスは2点目を奪って勝負を決めた。

■準決勝を盛り上げた2チームの姿勢

 12月13日に行われたアルゼンチン×クロアチア、14日のフランス×モロッコ、2つの準決勝は、試合としてとても面白かった。準々決勝のフランス×イングランドはたしかに最高レベルの試合だったが、準決勝の2試合は勝負としてとてもエキサイティングだった。

 そうなった理由は、相手と比較すると優勝の経験もなく、まだ世界の「ビッグネーム」とは言えないクロアチアとモロッコが、まったく憶することなく、まっとうに攻撃を組み立てて相手ゴールに迫った点にある。大方の予想に反して、ボールを支配し、相手を守備に追い込んだのはクロアチアとモロッコだった。

 フランスはそれでもアントワーヌ・グリーズマンを中心に攻めをつくり、エムバペのスピードを生かして打開しようとしたが、アルゼンチンは逆にクロアチアに攻めさせ、カウンターでクロアチアに打撃を与えようとした。そのサッカーに合わせ、FWにフリアン・アルバレスという選手を起用したのも当たった。アルバレスは少年のようにひたすら前に走り、止まりも転びもせず、相手のものになりそうだったボールを自分の足に当ててボールを運び、2点目を決めた。

 しかし先制されても追加点を入れられても、クロアチアもモロッコも試合への態度、勝利への情熱を変えなかった。その姿勢は本当に素晴らしかった。それは、日本、ブラジルを下して準決勝に進出したクロアチア、スペイン、ポルトガルを退けたモロッコの両チームとも、それぞれの準々決勝までの戦いとまったく変わらないアプローチだった。欧州と南米の強豪、ワールドカップで上位を占め続けてきた「ビッグチーム」の「格」や名声、ましてや所属クラブ名などを過剰にリスペクトすることなく、自分たちのもてるものを出し尽くすことだけに集中した準決勝でも共通していた。

■楽しみな3位決定戦

 ワールドカップの試合がすべて面白いわけではない。守備を固める一方の消極的なサッカーに終始するチームもあるし、強豪と呼ばれるチームが個の力に任せるようなサッカーで得点を奪い、あとは流してしまうような試合もある。

 しかし今回の準決勝2試合は、3-0、2-0と点差は開いたものの、「ビッグネーム」のアルゼンチンとフランスというこの大会にはいって非常に良くなってきたチームの連係やバランスを生かして得点する一方、「チャレンジャー」と位置づけていいクロアチアとモロッコが見事なサッカーでスタンドを沸かせ続けた。本当に見応えのある2試合だった。

 私だけでなく、多くの人が現地時間12月17日(日本時間18日0時キックオフ)にハリファ国際スタジアムで行われる3位決定戦「クロアチア×モロッコ」に大きな期待を抱いているのはそのためだ。ともにほとんど先発メンバーを変えずに戦い続けてきて7戦目。同じF組の初戦(11月23日)に対戦し、シュート数も枠内シュートも同数(7本、2本)だった互角の試合から数えて25日目の再戦である。両チームとも、きっと疲れ切っていることなど忘れさせる好プレーを見せてくれるだろう。