カタールワールドカップの決勝が現地18日に行われ、アルゼンチン代表がPK戦を制して36年ぶりの優勝を果たした。

 フランス代表は劇的な形で2度にわたって追いつき、延長戦まで120分間のスコアは3-3。しかし、PK戦で2人のキッカーが失敗し、蹴った4人全員が成功させたアルゼンチン代表に屈した。ワールドカップ連覇の夢は、あと一歩のところで潰えてしまった。

 表彰式を終えがアルゼンチン代表選手たちがロッカールームで祝杯をあげて大騒ぎしている中、フランス代表選手たちはひっそりと会場を後にした。取材エリアに最初に姿を見せたMFエドゥアルド・カマヴィンガは暗い表情で沈黙を貫き、広報担当者に付き添われてチームバスへ。

 その後、MFアドリアン・ラビオ、MFオーレリアン・チュアメニ、FWキリアン・ムバッペらも声をかけた報道陣の求めに応じることなく取材エリアを通過。他のほとんどの選手たちが姿すら見せない中、DFラファエル・ヴァランとキャプテンのGKウーゴ・ロリスだけがマイクの前に立って心境を語った。

 ディフェンスラインの主軸として活躍したヴァランは「僕たちはピッチで力を出し尽くした。ワールドカップの優勝を逃したことは悲しいけど、チームを誇りに思う」と、何とか前を向こうとしていた。

 序盤からアルゼンチン代表の選手配置や積極的なプレッシングに苦しんだフランス代表は「60分間、存在しなかったようなものだった」とヴァランは言う。公式記録で前半のシュートは0本という屈辱的な展開で、ハーフタイムを迎える前に2人の交代に踏み切るしかなかった。

「攻撃で何も生み出せなかった。原因は肉体的なものか精神的なものかわからないけど、相手に全く対応できなかった」

 ただ、徐々に主導権を握り返したフランス代表は80分と81分にFWキリアン・ムバッペがゴールネットを揺らして追いつく。延長戦で再びアルゼンチン代表に勝ち越されたものの、土壇場でレ・ブルーの10番が118分にハットトリックを達成する劇的なゴールを奪って3-3の同点とした。

 ヴァランが「懸命に戦い、何とか試合の流れを引き戻して、(PK戦の前に)勝つことさえできたと思う」と語る通り、60分過ぎからプレー強度が落ちていたアルゼンチン代表に勝てるチャンスは十分にあった。だからこそ「結末は残酷だった」。

 現在29歳のセンターバックは、代表選手としての今後について「それを話すのに適切なタイミングではない」と言葉を濁した。ただ、次世代にバトンを渡す準備はできつつあるようだ。ヴァランは特に若いエムバペ世代への大きな期待を語った。

「このチームは若い。僕たちの世代も敗北の上に成功を築いてきた。フランス代表は再び立ち上がって、もっと強くなって戻ってくるだろう。大きな可能性を秘めているし、若い世代の選手たちは野心を持っている」(ヴァラン)

 同じく代表引退の可能性が取り沙汰されるロリスも、「この大会は、フランス代表の将来に活かすことができる」と述べたうえで、エムバペを中心とした20代前半の選手たちに特大の期待を寄せている。

「キャリアの最後のフェーズに到着した世代と、今大会で強力なリーダーシップを発揮したキリアン(・エムバペ)が率いる新しい世代との間でバトンの引き継ぎが行われた。フランス代表のレベルをこのワールドカップ決勝と同じ水準で維持するために努力を続けなければならない」(ロリス)

 キャプテンとして史上初のワールドカップ連覇を目指した35歳の守護神は、自らの代表キャリアの今後について「物事を冷静に見極めるため、一歩下がってみる必要がある。数週間後にはどうするかわかるだろう」と明言を避けた。

 しかし、ヴァランやロリスの言葉を聞く限り、彼らのようなベテラン世代がカタールワールドカップ後にごっそり抜けることも十分に考えられるだろう。今大会で契約満了となるディディエ・デシャン監督に退任の噂もあり、フランス代表で1つのサイクルが終わりを迎えようとしている。

 これからチームを引っ張っていくのは、カタールの地で8得点を挙げて大会得点王に輝いたエムバペになる。2度目のワールドカップでも、個の力で状況を一変させられる異次元のポテンシャルとクオリティを持ったストライカーであることを証明した。どんなに守備をしなくても、攻撃であれだけの違いを見せてくれれば、それだけでお釣りがくる。

 来年以降、EURO2024を目指すフランス代表の顔ぶれはどう変わっていくだろうか。2大会連続でのワールドカップ決勝進出に大きく貢献した中心選手たちの決断に注目だ。

(取材・文:舩木渉)

カタールW杯ベストイレブン! 大舞台で輝いた世界最高の11人
あまりに酷すぎる…。カタールW杯最悪のチーム5選