あまりに出来すぎたストーリーというのは、ただの空想で終わらず現実になることもある。

 アルゼンチン代表のFWリオネル・メッシは、数々の偉大な記録を塗り替えた末にカタールワールドカップで頂点に立った。

 グループステージが開幕した段階で、アルゼンチン代表の優勝を確信した人はどれだけいただろうか。初戦でサウジアラビア代表にまさかの敗戦を喫し、一時は決勝トーナメント進出すら危ぶまれたほどだったのである。

 その危機からチームを救い、高みに導いたのが絶対的エースのメッシだった。アルゼンチン代表の歴代最多出場と最多得点の記録を更新し続けている背番号10は、ワールドカップの歴史に個人としても名を刻んだ。

 準々決勝のオランダ代表戦で1得点を挙げたメッシは、アルゼンチン代表のワールドカップにおける通算得点記録でガブリエル・バティストゥータ氏の「10得点」に並んだ。そして、準決勝のクロアチア代表戦で先制ゴールを奪い、単独トップに。最終的には記録を「13得点」まで伸ばした。

 そのクロアチア代表戦で、メッシはワールドカップ通算25試合出場を達成。足掛け5大会で、元ドイツ代表のローター・マテウス氏が保持していたワールドカップ歴代最多出場記録に並んだ。

 通算26試合目となる決勝のフランス代表戦にも先発出場し、マテウスの記録を破ってメッシがワールドカップの歴代最多出場記録保持者になった。

 また、フランス代表戦の前半の24分が経過した時点で、別の記録も生まれていた。メッシはワールドカップでの通算出場時間が「2217分」を超え、元イタリア代表のパオロ・マルディーニ氏が保持していた歴代最長出場記録を更新した。

 残念ながら元ドイツ代表FWミロスラフ・クローゼ氏が持っている歴代最多得点記録「16得点」と歴代最多勝利数記録「17試合」を塗り替えることはできなかったが、他にもメッシが新たに刻んだ記録はたくさんある。

 フランス代表戦で2得点を挙げたメッシは、コパ・アメリカとワールドカップでの得点数の合計が「26」となった。これは元ブラジル代表FWロナウド氏の「25得点」を上回り、歴代単独最多の数字だ。

 キャプテンとして出場したワールドカップの試合数は「21」で、元メキシコ代表DFラファエル・マルケスを抜いて単独最多に。ワールドカップの決勝トーナメントにおける通算アシスト数は準決勝のクロアチア代表戦で「6」に伸び、元ブラジル代表FWペレ氏を抜いてトップになった。

 ワールドカップ5大会でアシストを記録した選手はサッカーの歴史上、メッシだけ。また10代、20代、30代で出場した全てのワールドカップでゴールを記録した唯一の選手でもある。

 決勝戦の後、メッシはゴールデンボールを受賞すると発表された。このワールドカップの大会最優秀選手賞をキャリアで2度受賞したのは、1994年大会と1998年大会で獲得した元ブラジル代表FWロマーリオ氏に次いで史上2人目だった。

 ペレ氏や同胞のディエゴ・マラドーナ氏、元フランス代表MFジネディーヌ・ジダン氏、元オランダ代表のMFヨハン・クライフ氏でも達成できなかった偉業である。

 過去4大会の決勝トーナメントで一度もゴールネットを揺らしたことがなく、“呪い”があるのではないかと心配されたが杞憂に終わった。今大会はラウンド16以降に5得点を挙げ、決勝のフランス代表戦も2得点でチームを力強くけん引。

 ワールドカップにおけるゴールとアシストの合計、得点関与数は「21」に伸び、集計が始まった1966年イングランド大会以降では最多の記録を更新した。

 滑り出しこそ不安定だったものの、最後はまさしく「メッシの大会」と言える結末となった。“神”になったアルゼンチン代表の10番は35歳にして全7試合にフル出場し、次々に新たな記録を打ち立てながら、まるで筋書きがあったかのように一歩ずつステップを登って悲願の世界一を達成したのである。

▽リオネル・メッシがカタールワールドカップで塗り替えた主な記録

ワールドカップ歴代最多出場記録:26試合
ワールドカップ歴代最長出場記録:2314分間
ワールドカップにおけるアルゼンチン代表選手の歴代最多得点記録:13得点
コパ・アメリカ+ワールドカップ通算得点記録:26得点
キャプテンとしてのワールドカップ歴代最多出場記録:21試合
ワールドカップ決勝トーナメントにおける歴代最多アシスト記録:6アシスト
ワールドカップにおける得点関与数の歴代最多記録:21得点
アシストを記録したワールドカップの最多記録:5大会
通算2度のワールドカップ最優秀選手受賞:史上2人目

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