カタールワールドカップが終了した。蹴球放浪家・後藤健生にとっては、最大の思い出のひとつがメトロとなった。世界中で敷設されている地下鉄だが、そこには各国それぞれの色も見える。現時点での終着駅から、かつて巡った国々へと記憶のレールをたどっていく。
■地上を走る地下鉄
スウェーデンのストックホルムの地下鉄は岩盤の中を走っています。あの街の地下は硬い岩盤に覆われていて、駅なども岩盤層がむき出しになっています。岩盤を一種のデザインとして利用しているのです。ですから、ストックホルムの地下鉄は比較的浅いところを走っています。
もっと浅いところを走る地下鉄もあります。
ベルギーの首都ブリュッセルの地下鉄は「地下鉄」というよりもトラム(路面電車)の一部です。トラムの路線のうち、都心部だけが地下になっているのです。道路を掘って、その溝の中に線路を敷設。上に“蓋”をして、その上を自動車が走っているのです。ですから、コンクリートの“蓋”のすぐ下の非常に浅いところを走っているというわけです。
同じように、道路のすぐ下を走っていたのがハンガリーの首都ブダペストの地下鉄(トラムの地下区間)でした。階段をほんの20段くらい降りれば、すぐに地下鉄のプラットフォームなので、大変に便利です。
■ハンガリーでの思い出
そして、ブダペストの地下鉄のもう一つの名物が「検札」でした。
ブダペストを訪れたのは2001年9月のことでした。2002年日韓ワールドカップのヨーロッパ予選、ハンガリー対ルーマニア戦を観戦に行ったのです。
地下鉄に乗るにはまずチケット(または回数券)を買って、そのチケットをガチャンと駅や車内の改札器に通し、乗車時刻の刻印を印字して有効化する方式でした。ヨーロッパのバスやトラムでは一般的なシステムでした(今ではICカード化されているでしょうが)。
改札口などありませんから、乗る時にチケットの有効化をしなければ簡単に無賃乗車もできてしまうのです。ですから、どこの国でも私服の検札が回ってきて、無賃乗車を摘発すると高額な罰金を取ることになっています。
「アッシは日本人でごぜぇます。言葉もよく分かりませんでげす。お代官さまァ、どうかお慈悲を~」などと言っても、けっして許してはもらえません。
しかし、他の国では検札はそんな頻繁には回って来ませんから、無賃乗車をする人もけっこう多かったのです。
ところが、ブダペストでは本当に5分に1回、10分に1回くらいの割合で頻?に検札が回ってきたのです。これでは無賃乗車は割に合いませんが、検札係の人件費もけっこうかかっていたことでしょう。まあ、僕が心配すべきことではないのですが……。