日本代表の快進撃で列島が熱狂した「FIFA ワールドカップ カタール 2022」。ABEMAでは本田圭佑GMが解説を担当し、数々の名言&珍言が飛び出すとTwitter上では「本田の解説」がトレンド入りするなど、大きな反響を呼んだ。そんな本田GMの“相方”を務めたのが、テレビ朝日の寺川俊平アナウンサーだ。12月23日のAEBMA『倍速ニュース』にはそんな寺川アナが出演。ナイスコンビと絶賛された実況席の“裏側”に加えて、海外の現場ならではの苦労話をたっぷり語った。
4歳からサッカーを始め、学生時代も青春のすべてをサッカーに捧げてきた寺川アナ。「ワールドカップで日本代表戦の実況を担当したい」という思いを持ってテレビ朝日に入社した。その目標を「想像以上の形で叶えることができた」と振り返る裏側では、世界最高峰の試合を実況するために入念な事前準備が話題に。大会終了後に自身のTwitterに投稿した実況用資料の写真には6万を超える“いいね”が寄せられていた。
――実況に向けてどんな準備を?
「まずは代表チームのプレー映像を見て、どんなチームなのかを確認しました。それに合わせて選手の情報、チームの歴史、最近の国際大会での成績などをまとめるのですが、資料を作るためにExcelファイルと格闘していました。
Twitterの投稿に大きな反響をいただきましたが、『いっぱいしゃべれて嬉しかった!』という気持ちを投稿したつもりが、思いのほか『こういう大変な資料を作っているんだ』という反応を頂いて、逆に驚きました。これは僕だけが作っている訳ではなく、実況アナは皆さんこのくらいの資料を事前に作成して放送に向かっているんです」
ABEMAの「倍速ニュース」に出演した寺川アナは、ワールドカップ中継で実際に使用した資料を披露。ポジションを分けたブロックの中に個々の情報がきっしりと書き込まれているほか、放送中に記したという手書きの走り書きも。視聴者からは「うわー」「尊敬するわ」「資料作りうまいな」「やるねえ」「すごいな、どんだけ選手覚えてるんだ」「やるな寺川」「情報の容量がすげ」といったコメントが寄せられていた。
――メンバー、フォーメーションは試合の直前に発表されるが、いつ準備を?
「スタメンが発表されるのが試合開始の約1時間半前。国際映像に流れる予想フォーメーションと同じテクニカルラインナップが出てくるのも1時間半前です。そのくらいの時間はピッチ上でリポートを撮っていたり、決勝の日はクロージングセレモニーが行われていたのでいつもバタバタです。放送席のディレクターと協力しつつ、Excel上でスタメンやポジションを組み替えて、持参した小さなプリンターにパソコンをつないで印刷していました」
――資料は自作?
「そうです。今回は全64試合をテレビ朝日の系列アナウンサーが実況を担当していたので、互いにある程度の資料は共有していますが、いざ実況となると、自分が欲しい情報順に並んでいた方が使いやすいので、結果的に自分の好きな形に修正していました」
――決勝戦では、本田GMがフランス代表のラビオ選手に関する情報を寺川アナに問いかけ、それに詳細かつ即座に回答していたシーンも話題となった。
「ある程度、普段プレーしているポジションなどは資料に書いていますが、なぜラビオ選手だけ去年のユーロの実績まで答えられたかというのは、ラッキーが重なったという部分もあります。
決勝にも出ていたテオ・フェルナンデス選手が、決勝前の数日間、練習に参加できなかった日があったんです。そもそも、フランス代表の左サイドバックはリュカ・フェルナンデス選手というテオのお兄さんがレギュラーだったんですけど、グループステージの初戦で負傷して居なくなってしまったんです。以降は弟のテオがずっと頑張っていたんです。テオが出ない時は本職ではないカマヴィンガ選手が左サイドバックをやっていたんですが、他に左サイドバックをできる人はいるのかなというのを調べていたんです。
そこで『ラビオが左(サイドバック)というのも“ワンチャン”あるのかもしれない』という発想で、去年のユーロの情報を調べていたら、1試合で左サイドバックが2人変わった際にラビオが投入されたことがあって。さらに5バックの左のウィングバックでラビオが出ていた試合があったのを見つけたので、それを書いていました」
さらに、寺川アナは実況当日のスケジュールも公開。12月18日のアルゼンチン代表VSフランス代表の決勝戦当日の24時間を円グラフに記した。
――実況当日のスケジュールは?
「出発前は視聴できていない試合のチェックや資料の確認をしていました。スタジアムに到着してからは、メディアセンターで最後の資料確認や、スタッツ、データの確認に時間を充てていました。
決勝放送終了後は、優勝したアルゼンチン代表のパレードが行われるということで、スタジアムから身動きが取れなくなってしまい、しばらく車の中で待機している時間がありました。結局ホテルに戻って寝付けたのは現地時間の朝方5時頃だったと思います」
――約1カ月の海外遠征で生活に困ったことは?
「ネットはWi-Fi環境が整っていていましたが、スタジアムで多くの観客が詰めかけると繋がりにくくなり、スタメン情報がなかなか見られなくて焦ることがありました。
あとは、強烈な紫外線とシャワーの水が硬水だったので、髪がキシキシになってしまいました。帰国してから散髪にも行けていないのですが、近日中に行きたいですね(笑)」
さらに、“名コンビ”と言われた本田GMの素顔についても紹介。
――本田GMの印象は?
「ストレートでわかりやすい言葉で言ってくれるので、多少意味を変換する作業はありましたが(笑)、楽しかったです。本田さんはサッカーに真っ直ぐで、奇をてらわない、思ったことをすぐに言葉にするし、いろんなところを見ている、反応が早い、90分ずっと高いモチベーションで試合を解説して下さるし、素のままで来て下さる本田さんと一緒に実況を担当できる喜びを感じていました」
――グループステージ日本代表VSドイツ代表戦で初タッグ。実況中に久保選手と本田GMを呼び間違えたことも話題に。
「あの日が本田さんとコンビを組んだ最初の日だったので、『こういうことを聞いたらこういう回答があるかな、こういう質問をしようかな』というのを考えていたのですが、本田さんは会話のテンポがすごく早いので、いつもの実況のテンポでは追いつかなかったんです。いつもだったら、見たものを描写してアナウンスしながら別のことを考えるということができるのですが、その日は全くできなくて、その後に本田さんに聞く質問を考えながら久保選手の描写をしようと思ったら『キープする本田』と言ってしまいました…」
――放送席でのマル秘エピソードは?
「2人で顔を見合わせた瞬間が多かったです(笑)。
あとは、決勝戦が延長に突入することになり、その際にエムバペ選手がマッサージを受けている様子を『徹底的なマッサージを受けている』と実況したんです。その『徹底的なマッサージ』というワードが本田さんのツボにはまってしまったようで、しばらくいじられていました。その様子は放送にも乗っていたと思うのですが、決勝という大舞台の放送に僕の大笑いする声を乗せることはできないので、カフ(マイクの音量調整)を5秒ほど下げさせていただいて、ひとしきり笑って気持ちを『ふ~』っと落ち着けたということがありました」
――本田GMは準決勝・決勝で自身の“推し”の国を熱烈応援した解説も話題に。準決勝では前半がアルゼンチン応援、後半がクロアチア応援と“推し変”する場面も。
「斬新だなと思いました。いままでのサッカー中継ではやってなかったことですよね、推し変が試合中に起こるって。アルゼンチン対クロアチアの試合でしたが、前半は『メッシ選手を応援しているからアルゼンチンを応援します!』と言って、後半は『このままじゃ日本に勝ったクロアチアが負けちゃうから、クロアチアを応援します』と、前後半で応援するチームを変えるというのは、ものすごい画期的だなと感じました。
実況アナウンサーは、日本戦の場合は日本戦が主語になりますが、外国勢の試合の場合はニュートラルにしなければならないんです。しかし、サッカーの場合は試合展開が激しく動くので、時間帯によってはどちらかの国に偏った実況になってしまうんです。そこで一試合を通じて半分ずつくらいの分量になっていればいいな、というバランスのとり方をしています。でも本田さんの場合は前後半でバサッと分けていたので、斬新なやり方だなと思いました。これは本田さんの立場、キャラクターだからこそできたこと。真新しさを感じましたね」
――激しい試合展開で、本田GMのテンションの緩急も話題になった。
「それは、本田さんのサッカーや選手たちに対する愛情深さが言葉の端々から感じることができたからだと思います」
――実況担当の試合前のメンタル、試合後に後悔したことは?
「試合前は不安が多いです。『あれを調べておいた方が良かったな』とかずっと考えていました。
試合後の後悔というより、しゃべりながら後悔しています。『あ、今のはこっちの表現の方がよかったかな』と思いつつも、もう次のシーンに進んでしまっているので、仕方ないなと思ったりしています。放送席には国際映像が流れるモニターがあるのですがやはり0.5秒ほどディレイが出てしまうので、映像に合わせて実況すると放送上ではさらに遅れてしまうんですよね。そうなると生の試合を見ながら描写をして、モニターの映像やリプレイ映像で確認作業をするという作業になるのですが、決勝が行われたルサイル・スタジアムは、中継席からピッチが遠いんです。最初はその距離感に慣れなくて、選手の背格好だけで判断していたら選手名を間違ってしまったりしたこともありました」
――今回のワールドカップで、日本代表がドイツ、スペインと強豪国を撃破できた理由は?
「専門的なことを語る立場にはないですが、森保監督が就任してからずっと言い続けてきた『良い守備から良い攻撃へ』『勇気を持って勇敢に戦う』『自分を信じ、仲間を信じ、勝利を信じる』『これまで同様、最善の準備をする』など、ずっと同じことを繰り返しおっしゃっていたんですね。試合前に選手の皆さんが口々に『信じる』ということをおっしゃっていたんです。これって、無意識のうちに森保監督が繰り返し伝えてきたことが選手たちの間でキーワードになっているから自然にたくさんでてきたんだろうなと感じました。4年間かけてこのW杯で勝つための戦い方を森保監督、チームが目指してきたからこそああった勝利に繋がったんだろうなと思いました。
堂安選手も『これ(勝利)は偶然ではなく必然』とおっしゃっていましたが、チーム全体の意思統一、ベクトルを合わせる作業を4年間をかけて作り上げてきたからこそ、そういう言葉が出てきたんだと思いましたし、ああいう素晴らしい勝利を掴むことができたんだと思います」
――世界最高の舞台の実況を終え、寺川アナの今後の目標は?
「ワールドカップで日本代表の試合をしゃべりたいという思いを持って入社してここまでやってきたのですが、正直、ここまでの形でワールドカップに関われると想像出来ていなかったんです。ひとつの目標や夢が達成されたんじゃないかなと思っています。
そこから次の目標、というのがすぐに考えられない状況です。帰国してからも仕事が続いているので、お休みのタイミングで考えたいと思います。注目していただけるのはありがたいですが、あくまでも主役、主語はワールドカップであり日本代表です。私はその横にいられたから生まれた副産物で付属品なんです。
今すぐに目標を見つけるのは難しいですが、来年は少し穏やかに過ごしたいなと思っています(笑)」
(ABEMA/倍速ニュース)