投手として9勝、打者として46本塁打を記録し「投打二刀流」としてメジャーリーグを席巻したエンゼルス大谷翔平投手。メジャー4年目にして初めてけがなく1年通してプレーを続け「野球の神様」ベーブ・ルースと度々並び称されるような記録を、次々と打ち立てた。元メジャーリーガーの川崎宗則氏も「歴史の1ページを築きました」と絶賛する成績だが、これも全ては1年通してグラウンドに立ち続けられたからこそ生まれたもの。これを成功させたのは、熱心な選手であるほどに決断が難しい「練習を減らすこと」だったという。
【動画】大谷翔平、2021シーズン全46本塁打
大谷にとって、メジャー4年目となった2021年は、やっと1年間フルに活躍できたシーズンとなった。投手としては23試合に全て先発で登板、打者としては155試合に出場。レギュラーシーズン162試合のほぼ全てに投手、もしくは打者として出場したことになる。打者としてだけでも155試合に出るにはタフさが求められるだけに、いかにハードな1年を送ったかがよくわかる。川崎氏も「1年間、グラウンドに立ち続けることが彼の中でも目標でした。けがで彼が見られないことがなかったのが非常によかったです」と目を細めた。
投打の二刀流は、過去にも挑戦してきたメジャーリーガーがいる。ただ、打者というよりも投手として投げ続けることが、想像以上にハードだという。「他のアメリカの選手も、みんな二刀流にトライしたかった。何人かいましたけど、投手の方で断念をせざるを得ませんでした。それぐらいマウンドの傾斜を使って投げるというのは、体に負担がかかるんです」。体重移動させたものをマウンド傾斜の力も借りて加速させ、ステップした足で受け止める。その反動で上体、さらには腕を稼働させて振り抜く。球数の分だけ、この動作を繰り返すのだから、全身にかかる負荷は見た目以上に大きいという。「これを翔平さんは1年間やりきった。これはものすごく大きいこと。ベーブ・ルースさんもそれをやったんでしょうけど、歴史の1ページを築いたようなものです」と称えた。
過去のシーズンと大きく異なるのは、登板機会の前後にオフを取らなかったこと。打者の出場は過去最多だった2019年の106試合・425打席から、2021試合は155試合・639打席と、飛躍的に増えた。登板する日以外は、ほぼ指名打者でスタメン出場。当然、疲労を心配する声も多くなっていったが、川崎氏によれば、試合に出続けることのメリットは大きく、さらに練習を減らすことでの調整がうまく言ったという。
重きを置いたのはメンタルだ。「(オフなしは)マドン監督が、大谷選手に対する気持ちを踏まえた上で、やったことです。そのかわりに極力、練習量を減らしました。試合以外のことをすごく削除して、彼の不安を取っていきました。それが非常によかったと思います」。努力家ほど、練習をしないという選択には不安がつきまとう。「怖いんですよ。僕もアメリカにいた時、練習量が減ったことがすごく不安でした。それでもプレーできるというメンタル面での安心があればいいんです。練習は何のためにするのか。技術的なことではなくて、メンタルをよくするためにやっていたこと。翔平さんにとっても『ああ、おれはこれくらいの練習でも結果が出るんだ』という安心感が出たんじゃないでしょうか」と説明した。
技術的なことは、オフシーズンのトレーニングで大きな部分は構築してある。シーズンに入ってしまえば、そこから先は微調整で乗り切るしかない。レギュラーメンバーならなおさらだ。大谷のように技術、体力ともにしっかりと作り込んできた選手であれば、あとはシーズン中、試合に出続けて感覚をキープすることで、オフを取る以上の効果が得られた。それを証明したシーズンになった。「練習を減らして体は休められる、ゲームにも集中できる。新しいカードを1枚、持ったんじゃないかと思いますよ」。
考えれば、打者としては登板前後に打席に立たず、また数試合ぶりに豪腕投手たちと相対する方が難しいのも納得だ。「ゲームで打席に入ることの方が、彼にとっては技術的にもアップにつながったんでしょう。毎試合ベンチにいて、打席に立って、塁に出て走る。それがメンタル的にも体的にもよかったんだと思います」と、試合に出続ける効果は高いという。
来季も投打の二刀流として活躍が期待される大谷。周囲が休養をすすめる中、本人にとっては、仲間たちと楽しい野球をしていることの方が、よほど心穏やかに、かつエキサイティングにいられるのかもしれない。
(ABEMA『SPORTSチャンネル』)





