「ストーリーありきの番組も」「専門家に見える素人がキケン」テレビのウクライナ報道に相次ぐ批判を問う
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連日テレビの報道・情報番組が伝えている、ロシアによるウクライナ侵攻の問題。

ところが専門知識を持っているわけではない出演者に対しコメントを求めていく番組構成や、解説をする“専門家”の選び方について、視聴者からは多くの疑問の声が上がっている。

そこで16日の『ABEMA Prime』では、ウクライナ侵攻を機にテレビ番組に出演する機会が増えたという防衛省防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室長を交えて議論した。

■夏野剛「ネタによってコメンテーターを変えていこうよ」

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夏野剛(慶應義塾大学特別招聘教授):一度、見直をしてもいいと思う。感想的なことを述べるコメンテーターの方は普段からたくさんいて、視聴者の側も“あぁ、やっぱり私もそう思っていた”と感じて溜飲を下げている。もちろん、素人の方であっても、“想像力”が働く人はいる。たとえば自分がウクライナ人で、今のキエフにいたらどうなんだろうと。そういうことに基づいた発言は素人のものであっても参考になると思うし、全否定はできない。

でも、ウクライナの問題について「かわいそうに」とか「命が大切だ」とか、そんなことを聞いても仕方ないし、放送時間がもったいない。それだったら現地映像を少しでも多く流した方がいい。実際、リモートワークでお昼の番組を見ていると、「私は分かんないんですけど…」という接頭辞を付けつつ、こんなこと言っちゃっていいの?と思うようなことを言う人がいっぱいでてくる。

それでもコメンテーターのキャスティングというのは、当日どんな話題を扱うかに関係なく、事前に決まってしまっているからしょうがない。だから司会者は順番に振っていかざるを得ない。でも、もうウクライナのことを取り上げるんなら、「申し訳ないけど…」と事務所に謝ってでも、入れ替えをしていった方がいいのではないか。少なくとも報道番組、あるいは情報番組はネタによってコメンテーターを変えていこうよ。今の自分のポジションを否定している感じになってしまうが、俺はそれでいいんだ。

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高橋:まず、私はスポーツが大好きなので、テレビ番組以外の場所では代表監督の采配などについて思うことを話すこともある。その意味では、私も“素人”として発言することがあるということだ。その意味では、“素人”という言い方をするのもどうかと思うが、テレビ番組で“専門家”ではない人が今回の戦争を語るということはあってもいいと思う。

ただ、同時に考えないといけないことが二つあると思う。一つは、今も自分の命を懸けて戦っている人がいるわけで、その選択は尊重すべきだということ。もう一つは、アンドリュー・マーシャルというアメリカの戦略家が語ったことで、“専門家”が心に留めておくべきだと言われるものだ。すなわち、知らないことには二つある。一つは“このことは知らない”と、知らないことをすでに知っていること。もう一つは、知らないことさえ知らない、ということだ。問題は後者で、“自分にはそういうものはない”という思い込みでコメントをされるのは非常に怖いことだ。

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宇垣美里(フリーアナウンサー):自分が何を知らないのかについての自覚がないと、“このラインは踏み込んではいけないのではないか”ということが分からない。“お仕事だから”ということで言っているのだと思うが、やはり“私には言えないな、それは危険な一歩では?”と思うことがないとは言えない。

高橋:私もコメントをするだけの人を視聴者として見ていて、何を言っているんだろう?と思うことはある。そうではなく、質問すればいいんじゃないか、と思う。専門家ではない人が素朴に思っている疑問を専門家にぶつける形にすれば、あまりフラストレーションはないのではないか。そして、こちらも専門家ではない方からの質問で気付かされることもある。私は先週もこの番組に出させていただいたが、ひろゆきさんとのディベートの中で気付いたことがあって、それを論文にも書いた。その意味では、良いやりとりというのも存在しているはずだ。

パックン(お笑い芸人):僕の場合は専門家としてではなく、考え方、伝え方が面白い人として登場している。もう26年も日本のテレビに出ているので、視聴者からも“そういう人だ”と理解されていると思う。だから僕の方でも専門家が話した知識・分析を噛み砕いて伝えることによって、見ている人が判断できるようになると良いなと思っている。だからこそ、それなりに勉強もしているし、無根拠な発言はなるべく避けるように心がけている。そういう立場でいいなら、これからもぜひキャスティングしていただきたい(笑)。

ちなみに海外のテレビ番組では専門家を起用するはずのところを日本ではタレントに任せていることが非常に多いし、局アナが網羅しているのを見て、すごいなと思う(笑)。政治もそうだが、日本は専門家中心の国じゃないなとつくづく思うし、面白い。

■宇垣美里「局員が大学に入り直して戻ってくる仕組みがない」

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平石直之テレビ朝日アナウンサー):テレビ出演者を代表して言うが、こうした問題は出演している専門家にも当てはまると思う。素人が素人として言っている場合、視聴者も“間違えているかもしれない”と思って聞いているが、専門家の方がそうだったときこそ問題もありそうな気がする。テレビでコメントをするとなると、内容はもちろんのこと、喋りが上手か、見た目がどうか、といった要素が加わってくる。その内容の部分が判定できていないという問題は出てくると思う。

成田悠輔(米イェール大学助教授・半熟仮想株式会社代表):タレント、芸能人の方が喋っている場合は、誰もプロや専門家だと思っていないだろうし、“そういうものだ”と思って聞けば大きな問題にはならないのではないか。どちらかというと、専門家に見えて素人、という人が危険だ。例えば肩書が弁護士、医師、大学教員だと、どうしても専門家っぽい雰囲気が漂ってしまう。そういう人たちが自分にとって専門だとは言えないような領域について話している時が危ない。

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平石:そこについては、「制作サイドのレベルが低いんじゃないか」「専門家への質問のレベルが低い、勉強してなさすぎ」「内容が散漫で浅くないか」といった意見もある。収録ものであれば取材したディレクターなどがインタビューを行っているわけだが、生放送であれば進行役やキャスターを務める私にも突き刺さる問題で、本当に気をつけないといけないと思う。あるいは「ロシア側のプロパガンダを垂れ流すな」。つまり、いわゆる“両論併記”として並べるのはおかしいんじゃないかと。

高橋:私は文章を書く仕事がしたくて修士課程を修了する前には就職活動で新聞社を回っていたこともあった。今の勤務先が採用してくれていなければ、おそらく今も新聞記者をしていたと思う。だからヨイショするわけではないが、今回のことで取材を受けていると、メディアが組織的に問題を理解しよう、伝えようと取り組んだ時の力にはすごいものがあるなと感じた。

ウクライナ問題の歴史は10年、20年、場合によっては100年以上も遡ることになるわけだが、それを1枚の図で非常に簡潔に間違いなく説明できていることもあって、率直にすごいなと思う。一方で、決められたストーリーに合わせて組み立てていこうとしているな、それは違うんだよ、と感じることもある。そういうときには、やはりフラストレーションを感じる。

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平石:放送時間が迫る中で“形ありき”というか、方向性まで決めちゃうのはおかしな話だという、そこは本当に直していかなきゃいけないところだが、スタッフとしてもウクライナの前はコロナばっかりやっていて、さあ勉強しなきゃみたいになっている現状はある。

宇垣:テレビ局で働いていた者としては、専門的でレベルの高い勉強をしている人もたくさんいるが、そういう人が全ての番組にいるわけではないのが実態だと思う。報道番組にはいても情報番組には不足しているとか、勉強したくても働きながらでは難しかったり、新卒で入社した局員が大学に入り直して戻ってくる仕組みが会社に無かったりということもある。

■経済学者だって「これから日本経済をどうしたらいいのか?」と聞かれて分かるわけがない

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パックン:コロナの話が出たから言うが、なんでもっと前に怒らなかったのかなと思う。コロナの報道でも、それこそ反ワクチン的な話や、タレントさんが意見を述べているのを聞いた。命がかかっている問題なのに、根拠となるデータがほとんど示されなくても、なんで今回のような反発は少なかったんだろう。

平石:原発事故の時にも「なんでテレビ局には専門家がいないんだ、違うことを言う人が出てくるから、分からないじゃないか」と言われた。幅広く、何でも知っている人がいればいいが、それぞれの分野の専門家を抱えていくほどは…というところはある。むしろ専門家の人に乗っかることで間違えないようにしているという、保身みたいな言い方になるが、そういう面もあるという。

パックン:海外の話ばかりをして申し訳ないが、アメリカでは原発や温暖化対策、ワクチンでもそうだが、推進派の専門家が90%だとしたら、5%、あるいは1%くらい反対派の専門家も登場させる。その点、日本は同じウェイトを与えるから、見ている人が混乱するんじゃないか。

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夏野:日本のテレビ局の場合、報道番組と情報番組に分けていて、報道番組の場合は変な意見を言わないようにものすごく気を使っている一方、情報番組は結構ゆるい。そういう情報番組が出てきた背景には、安く作れて視聴率が比較的とれるフォーマットだからだ。その意味では、喜んで見ている国民のレベルが低いということに尽きるのではないか。

成田:ぶっちゃけ、専門家の人たちも分かっていないことが多いんだと理解することが大事だと思う。専門家は過去に起きたことを正確に理解していたり、自分が分かっていることと分かっていないことの区別がついていたりする人たちだと捉えた方が良い。

その意味ではコロナやウクライナのように全く新しいことが起きた時や、未来に向けて何をしたら良いか、ということについては、専門家であればあるほど「よく分からない」というのが正直な回答になるんだと思う。経済学者だって、「これから日本経済をどうしたらいいのか?」と聞かれて分かるわけがない。専門家にも分からないことがある、専門家でも意見が分かれていることがある、という認識を広められるといい。

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平石:高橋さんもTwitterに「予想の的中率は自己評価で3割くらい」と書かれているし、予想がお仕事ではないと思う。しかしメディアとしては「この先どうなるのだろうか」と必ず聞くので、答えなければいけないということだ。

高橋:私は安全保障だけを専門にしているが、そういう人は日本に5人いないのではないか。それぞれの地域や歴史の専門家が“サイドビジネス”的に安全保障に手を出していることも多いからこそ、そもそも分からないというところもあると思う。

そして今後、化学兵器や核兵器が使われるかもしれない。21世紀に入って、その可能性が最も高い戦争だ。大切なのは、そういう現実から目を背けないことだと思う。そして去年の夏にアフガニスタンが注目を集めたが、今はもう関心がない。社会は変わっていくものだし、時間が経つと忘れられていくものなので、それはしょうがない。しかしこういう戦争あったということは忘れるべきではないし、そのために記憶を残していくことをメディアには期待したい。(『ABEMA Prime』より)

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