この4月、総勢53人のレギュラーメンバー陣で改めてスタートを切った『ABEMA Prime』(月〜金、夜9時〜)。「みんなでしゃべるとニュースはおもしろい」を掲げ、ニュース解説や議論を通して視聴者や出演者・制作者の考え方や視点が「変わる」報道番組を目指していくという。
ABEMA TIMESでは、チーフプロデューサー郭晃彰氏(テレビ朝日報道局)と平石直之アナウンサー、そしてレギュラーメンバーのジャーナリスト・佐々木俊尚氏に、番組にかける意気込みと課題について話を聞いた。
■平石「本音をきっちり聞き出すところに特化してやっている」
-ー「変わる報道番組」というテーマを打ち出していますが、今回の番組リニューアルについて。
郭:大切にしたいのは、膝を突き合わせて議論して、例え意見が違っても互いにリスペクトを忘れない、ということ。そういう景色を多くの人に見せていかないと、みんな話し合い自体をしなくなっちゃうんじゃないかという危機意識があります。
Twitter上の議論を見ていると、喧嘩して絶交というのが多いじゃないですか。どちらかが音を上げるまでやめないようなところがあるし、途中で意見が変わることでさえ良くないこととされている部分もあると思います。でも、“変わりました”って言えたほうが話しやすいし、生きやすい。だから30分くらいかけて議論を進めていった結果、“最初に言っていたことと意見が変わっていないか?”ということでもいいと思っています。
出演者については、これまでもシャッフルをしたり、定期的に新しい方を入れたりするようにしてきましたが、今回は27人だったレギュラーを53人と、ほぼ倍にしました。少ないメンバーで、しかも曜日を固定していると、議論がどう展開していくかが、視聴者にもだんだん分かってくるようになってきてしまいますから。
それから“テンプレ”っぽいコメントをしない人に出演をお願いしたいと思っています。その意味では、取って付けたようなことを言わない人が、よくこれだけ揃ったなと思います。やや手前味噌ですが。例えば佐々木さんだったら記者、ジャーナリストとしてのキャリアはもちろん、その中には持病(潰瘍性大腸炎)の経験など、“人生の全てを懸けてコメントする”、みたいなところがある。それがインターネットっぽいし、“地上波的”なものに対するアンチテーゼになるかなと思います。
佐々木:僕は“こういうふうに言わないといけないのかな”と思ったことは一度もないし、言いたいことを言っているだけなので。でも、それだと地上波では呼ばれなくなるよね。実際、地上波には滅多に出てないし、呼ばれもしない(笑)。ラジオとアベプラくらいかな。これだけ好き放題言っているのにクビにならないのがすごい(笑)。あと、“言いやすい環境”っていうのもあるかもしれない。平石さんの司会がすばらしいから。
平石:ありがとうございます(笑)。まずは思っていること、本音をきっちり聞き出すところに特化してやっているつもりです。私自身もそうですね。
ーーとくに平石さんと佐々木さんはバトルになることが多いような…。
佐々木:平石さんはマスメディアを批判されると急にカチンとくるから(笑)。
平石:佐々木さんの意見は強いし、議論の軸にもなっていくから、私個人が佐々木さんにというよりも、そこに割って入って、あえて逆の立場に、という感じなんです(笑)。佐々木さんはやっぱり“置きにいく”ような緩いコメントや、優等生風なコメントがお嫌いですよね。それで他の出演者に矛先が向いた時には、その人のことを守るという役割も実はあると思っていて。佐々木さんの意見が基本的には正しい、最適解に近いと思っていながらも、そうじゃない声は潰さないように、というか。だからリスペクトを大前提に加勢するつもりで…。そういう中で負けないようにと、つい口調が強くなってしまっている面はあるかもしれません(笑)。
佐々木:そうしたら平石さんの意見が“紋切り型”のように聞こえたり、守ろうとした人が急に意見変えたり、みたいなことも(笑)。
平石:そうなんですよ!はしごを外されてしまう。でも、そこも含めて楽しんでいただけているならよかったな。何度でも言いますが、佐々木さんはメディア業界の大先輩だし、Voicyも毎日聞いているんですよ。だって、出演翌日は大抵アベプラの話をしているから。その意味では、“こう言うんだろうな”、と予測しつつ聞いている部分もありますけど、やっぱり緊張感はありますね。
佐々木:気が付いたら手玉に取られている感じ(笑)。
郭:制作としても、実は事前に“佐々木さんvs平石さんごっこ”をするのが流行っていて、どこで議論の山場が生まれるのかシミュレーションをして構成しています。ただ、“ごっこ”もすごく面白いのですが、本番でその予測が外れた時が一番ワクワクしますね。思ったとおりなら、改めて議論してもらわなくてもいいわけですから。
■佐々木「アベプラの出演日は朝から憂鬱なんだよね(笑)」
ーー最近では、日本の報道番組には素人の出演者が多い、という議論もありました。
郭:BSは専門家だけ、反対に、地上波は専門家ではない人も混ざっているということが多い。アベプラはその間くらいにしようかなと思っています。
佐々木:芸人さんがコメンテーターをすることに対して、“政治に口を出すな”みたいな否定的な意見が多いですよね。でも、芸人さんたちってコミュニケーション能力が非常に高い。僕はその時代に最も優秀な人たちは、その時代に最も流行っている領域に行くものだと思っています。お笑いの世界にも、様々な分野で優秀な人が流れ込んでいますよね。ピースの又吉さんだって、本来だったら作家になっていたのかもしれない。
もちろん、コミュニケーションの能力が高いということと、専門性の高い分野についてコメントするということは違う。一方で、BSの番組は、その専門分野によほど詳しくないとついていけないこともある。改めて芸人さんたちの役割って何なのだろうかと、そこは再構築してもいいと思いますね。
平石:生番組のベースはコミュニケーション能力、反射神経ですよね。ただ、ニュース番組は単に面白ければいいわけではないし、それなりに準備も必要なところはある。聞いていて心地良いこと、乗っかりやすい話をしてくださると、見ている人も“そう思う”というのはあるが、場合によっては世論があらぬ方向に形成されていく手助けを担ってしまうこともあると思います。
佐々木:地上波のワイドショー的な空間がそうだけど、日本は紋切り型のオンパレードじゃないですか。でも今の時代は、そういうものとズレが生じていることが多いと思うんです。コロナもそうで、専門家の間では大体の共通認識があるのに、なぜかそれとは違う、変わった意見を持った専門家を呼んで来てしまう。そして芸人さんのみで対策について議論していく。それはどうなのかなと。
その意味では、芸人さんたちには、その場を円滑に回す能力が高すぎるから なんとなく紋切り型を並べてきれいにまとまって終わったらそれで良し、みたいなところもある。それはもう世論形成ではない。今までの議論を再生産しているだけ。“テレビだからそれでいいじゃん”ってことなのかもしれないけれど、ウクライナ情勢で言えばテレビ的な空間から形成されてしまった世論と安全保障の専門家の人の意見とがズレたり、活かされていなかったりするのはどうなのかなと。
その意味では、できるだけ専門家の意見を横断的に見て、そこから自分の意見を組み立てて側面攻撃する、ということを僕はやり続けていますね。でも正直言って、結構キツいんですよ(笑)。イヤだという意味ではなくて、緊張するという意味で。ラジオでは緊張もなく、自然体で望めているんですけど、アベプラの出演日は朝から憂鬱なんだよね(笑)。だからこそ企画に合せて準備もするし、頭の中で“こういう話になるだろうな、でもそれは絶対に受け入れられないから、こう反論しよう”とか、結構準備しているんですよ。
■郭「“今日はちょっと微妙だったよね”というところまで言えた方が良い」
ーー企画・構成についてはどう考えていますか。佐々木さんや安部敏樹さんは、番組中に“いや、そもそもこの問いの立て方がおかしいよ”とちゃぶ台返しをされます。
郭:そういうことをオンエア中に指摘してくれるのはありがたいですし、言える環境にしておきたいです。企画づくりについては、スタジオの誰も興味がないと始まりませんが、逆にスタジオにいる全員が熱量を持って議論できるテーマというのもなかなかない。だから出演者の中で誰か一人でも熱量を持っているものを、とは思っています。それがあれば議論は回っていくので。
佐々木:“あんな左翼番組”とか、逆に“右翼番組”とか言っている人もいるけれど、両方から攻撃されるというのは実は健全な証拠だと思いますよ。やっぱり、2つの正義が対立していて、そのバランス、落としどころがどこにあるのか、みんなで悶々と悩めることが大事だと思う。善悪が明快な問題はテーマとしてつまらない。
とはいえ、自分なりに意見を言ったり反論したりしようと思っていても、ゲストの方がかなり偏った意見をお持ちの場合や、何かの当事者だった場合、“ああそうなんですか”とか、“かわいそうですね…”で終わってしまうことはありますね。
郭:そのとおりですね。ただ、一度のオンエアで全ての意見をバランスよく提示するというのも、逆に地上波的だなと思っています。佐々木さんがおっしゃったような議論になった場合、第2弾、第3弾をやっていけばいいというのが、ある種の両論併記だとか、報道番組のアップデートということにもなるのかなと思っています。
平石:一般の人が偏っているな、と感じる意見を知っていただく場でもあると思っています。そこは、“とりあえず話をしてもらって、みんなに聞いてもらう”。そして、なぜそういう意見が存在しているのかを考えてもらう。そこは一回のオンエアで完結させる必要はなくて、反対意見は次回でもいい。特に、そういう意見を持った人たちが集まって団体や組織になっているのなら、そういうことも大事じゃないかと。
佐々木:難しいのは、継続して1回目、2回目…と聞いていけばわかると言われても、話が切り取られてしまうことがあるし。地上波のワイドショーがコロナでも感染が増えれば“感染が増えた”と騒ぎ、経済に影響が出ると“経済が大変だ”って騒いでいるように見えるのもそういうところがあるからだと思う。やっぱり“今日はちょっと微妙だったよね”という話が、番組内でできたほうがいいのかもしれないですね。
郭:そこは本当に難しい問題ですが、ゲストの方を送り出した後、レギュラーメンバーだけで今回の学びや今後の課題などについて話す時間を作ろうかなと思っているところです。そうやって、伝えて終わり、放送して終わりというところから抜け出したいですね。
平石:ある意味では“後味良く”終わらせたいという思いもありますが、見てもらうとわかるとおり、必ずしもそうなってはいないと思います。そこも含めて楽しんでもらえたらと思いますし、予定調和で終わらせないよう、私も真剣にやっていきます。
ーーありがとうございました。(3月29日収録)
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