“諦めたらそこで対局は終了”。久保利明九段(46)がそれを体現した。将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Bリーグ第3試合、チーム菅井とチーム斎藤の対戦が5月21日に放送され、第2局、第5局で久保九段と木村一基九段(47)のベテラン対決が実現した。第5局では久保九段の捌きに対し、木村九段の抑え込みと互いに得意な形でぶつかり合い、最後には大逆転で久保九段が勝星を奪った。
同じ相手に連敗は許されない。第2局と先後が変わり久保九段の先手番で始まった一局は三間飛車石田流を採用、木村九段は急戦に向かった。「昔指したことがある形だった」と木村九段が序盤から押し込み、早々にペースをつかんだ。中盤、たっぷりの考慮時間を投じた久保九段が△9六歩と端歩を突く。その一手を見た控室の斎藤慎太郎八段(29)は「あぁ、振り飛車党は端歩をついてくる。(第1局では佐藤)和俊先生も突いてきましたね。木村先生も私も、これが大きいと見ているのかと驚きました」と振り飛車党との感覚の違いに感嘆の声を上げた。
「捌きのアーティスト」の異名を持つ久保九段は、9筋に桂馬を跳ねてチャンスを掴みに行く。しかしペースは木村九段、飛車を切って久保玉を一気に詰ましに行った。このまま木村九段の勝利かと思われたが、久保九段の粘りの先にドラマが待っていた。木村九段がまさかの詰み逃し。大チャンスが転がり込んできたとはいえ、久保九段に残された時間はわずか11秒の中、冷静に切り替えてきれいな詰みの形で木村玉を討ち取った。
チームメイトの菅井竜也八段(30)、佐藤和俊七段(43)の元に戻った久保九段は、ホッと一息。「最後まであきらめちゃダメですね。詰んでいる局面でもあきらめないこと」と喜んだ。ベテラン棋士の攻防戦を見たファンは「さすがの粘り」「どちらからも勝ちたい気持ちが伝わってきた」「これはもう格闘技」と大興奮。久保九段のチーム菅井「真・振り飛車」は予選敗退となったが、また来期、大暴れを見せてくれることは間違いない。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)