選挙の「1人1票」は平等か…「余命に応じ票配分」で若者に不利な現状が変わる?
「余命投票」で若者に不利な現状が変わる?
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 団塊の世代すべてが75歳以上となる“2025年問題”が目前に迫る日本。そんな今、課題となっているのが、「シルバー民主主義」という言葉に代表される世代間格差だ。人口において多数である高齢者層が、選挙を通じて政策の決定権を握り、若い世代の意見が反映されないことが危惧されている。

【映像】“世代間格差”解消のために参考にしたい3つの投票制度(※解説パート:5分10秒ごろ~)

 この世代間格差は、少子高齢化の傾向が進む国では現実問題として結果が表れはじめている。2016年、イギリスのEU離脱の是非が問われた国民投票では、若い世代ほどEUへの残留を選ぶ傾向にあった。しかし、結果は離脱。SNSを中心に若者の不満が爆発する一方で、そもそも若い世代の投票率が低いことも指摘された。

 日本の参議院選挙の年代別投票率を示したグラフを見ると、灰色の線の60歳代が常に一番高く、青い線の20歳代は30%台と低い状態が続いている。選挙のたびに、若者の投票率の低さがクローズアップされている。

 こうした世代間格差を是正するための方法を模索した国もある。ドイツやハンガリーで検討されたのは、年齢に関わらず全員が選挙権を持つ「0歳参政権」。未成年者の場合は保護者が代理で投票するというものだったが、実現には至らなかった。

 より長い期間、現在の政策の影響を受けるのは、言うまでもなく若者だ。果たして、いまの選挙における「1人1票」は平等なのか。シルバー民主主義が本格化しようとする今、正面から向き合うタイミングがきている。

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 ニュース番組『ABEMAヒルズ』は東京大学大学院・法学政治学研究科の瀧川裕英教授と中継を繋ぎ、選挙における世代間格差の解消方法や、格差を改善するために考えられる投票制度について話を聞いた。

――瀧川教授は「票を不平等に配分する」という論説で票の配分の在り方を検討されていましたが、1人1票の原則は“守らなくても良い”とお考えですか。

「1人1票の原則が守られていない場合は意外とある。典型的な例が株式会社。ソフトバンクグループの株式会社は筆頭株主が孫正義さんだが、彼はソフトバンクの株を4分の1くらい持っている。1株につき1票のところ、孫さんは4億6000万票を持っている。それについて『おかしい』と言う人はあまりいないので、1人1票の原則というのはそこからまた考えていくこともできる」


――いま、選挙における世代間格差の問題を考える意義についてはどうお考えですか。

「現在、私は大学に勤めているのですが、大学生などの若い人の間では非常に閉塞感が強い。なぜなら、日本は過去20年で平均賃金が他国に比べて上がっていない、これから少子高齢化が進行していき未来の展望が暗い、またそれを変えようとしても若い世代の意見が政治に反映されにくいからだ。だから、こうした問題について正面から考えていく必要がある」


 それらの点を踏まえて、選挙の世代間格差を解消するために参考にしたい3つの投票制度を見ていく。

■(1)ドメイン投票制度

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 ドメイン投票制度は、赤ちゃんからお年寄りまで、年齢に関わらず投票権を与える制度だ。未成年の票は、親が代理で投票する。例えば、子どもが1人の場合は両親に0.5票ずつ、子どもが2人の場合は両親に1票ずつ与えることになる。

――この制度では、親が必ずしも子どもの意見を反映するわけではないので、意思決定が難しいのではないでしょうか。

「確かに、例外的な場合はあると思う。しかし、通常多くの親は自分の子どもの投票権を代理で行使するとなれば、その子どもの将来のことを考えて投票するのではないかと考える。現代の普通選挙制度では、多くの人を排除している。普通(=universal)なのに、全然そうなっていない。子どもや未成年者に対して選挙権が与えられていないので、この制度により“完全な意味での普通選挙制度”が達成される。

■(2)年齢別選挙区

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 年齢別選挙区では、青年・中年・高齢など、世代別に有権者をグループ化する。それぞれの区分に有権者が何人いるか、その比率で議席数も配分される。例えば、定数が9の場合、議席数は青年区2人、中年区3人、老年区が4人となり、有権者は自分の世代の選挙区に投票する。

――この場合、各世代の代表が送り込まれるが、人口構成は変わらないため、少数派は議会でも少数派のままということになるのでしょうか。

「たしかに現状の日本の人口構成を見ても、青年区と老年区の人口を比較すると、大体老年区のほうが1.6倍くらいになっている。つまり、そのままいくと結局若者の声は通りにくいということになってしまう。ただ、青年区で選出された議員が議会にいるというのはある意味象徴的。そのため、意味のある制度ではある。

■(3)余命投票

※余命の考え方はさまざまだが、ここでは「125歳」を人が生きる限界とする

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 “人生の残り時間が長いほど、政策から受ける影響が大きい”という考え方で、限界余命の「125歳」から自分の年齢を引いた数字が票数になる。例えば、いま20歳の人は125から20を引いて105票となり、90歳の人は35票を持つとする。

――余命で判断すると「高齢者差別ではないか」という意見も出そうですが、どうお考えですか。

「2つに分けて考えてみるのがいいと思う。まず、余命投票制度がすでに導入された場合を考えてみる。その場合はたしかに高齢者は若い人と比べて持っている票が少ないが、その人が“若いときには多くの票を持っていた”ということになる。そうすると、トータルで見ると人生で1人3000〜4000票を持っている。だから、長い目で見れば1人1人が持っている票の数は同じ。そういう意味ではみんなを平等に扱うことになっている。一方で、次の衆議院選挙で余命投票制度を導入した場合を考えてみる。現在の高齢者の方々は“若いときにはたくさんの票を持っていなかった”ので、そこは不平等になり、高齢者差別だということになる。そのため、制度の移行をどうするのかという問題は残ると思う」


 スタジオにコメンテーターとして出演していた慶応大学特任准教授などを務めるプロデューサーの若新雄純氏にも話を聞いた。

――若新さんは、選挙における世代間格差をどう解消していけば良いとお考えですか。

「大前提として、1人1票というのは一番妥協しやすい、『ベストとも言えないけれど、“1人1票”と言われると、それで偏りがあったりつまらなくなったりしたとしても、みんな不満を言いづらいという消極的な理由で採用されているもの』だと僕は思っている。1人1票は決して完璧ではない、理想ではないと思う。それでは、1人1票ではない方法でどれがいいかとなると、多分それぞれの方法にはいろいろなメリットがあると思う。しかし、『なんで私たちがそんな扱いを受けるんだ』『子どもの票を親に預けると、それは本当に子どもの意志ではないのだから、子どもがたくさんいる家の意見が強くなるんじゃないか』など、いろいろな声が上がる中で1人1票ではない方法を提案しても、どれも“新しく採用するには理由が十分じゃない”という感じで見送られそうだ。だけど、そういう理由でずっと投票制度が1人1票から変わらないからつまらないという人も多いと思っている。僕はそこを忘れてはいけないのではないかと思っていた」

 若新氏の持論を受けて、次のように分析した。

「たしかに、こういう制度案は現実に導入される見込みがほとんどない。なぜなら、現状においては高齢者の政治的なパワーが強く、有権者の数も多いからだ。また投票率も高いので、相対的に強い。したがって、高齢者が不利になるような投票制度が実際に導入される見込みは少ないと思う。しかし、問題はある。若い人たちは長期的に政策の影響を受けるわけだが、その人たちの意見が政治の過程で非常に反映されにくい状況になっている。日本の場合、特に高齢化率が高いので、若い人の意見をどういうふうに組み上げていくかというのは残る問題としてある」

 若者世代には余命投票がどう受け止められるか。若新氏は若者たちが「何か変えられるかも」と感じることにより、政治の景色を大きく変える可能性もある、と指摘する。

 これに対し瀧川教授は、自身が受け持つ学生の中でも余命投票について反対する学生が少なくないと話す。

「いくつか理由はあると思うが、この制度だと18歳の人が一番多く票を持っていることになるので、『十分な政治的判断能力を持っているのだろうか』という疑問もあると思う。しかし、他方で私たちは1人1票制度に飼いならされている。だから、違う考え方や発想を持ってみる。若い人のほうがより大きな影響を受けるのだから、影響を受ける人が決定権を持っているべきだ……こういうことを考えてみるのが重要ではないか」


――1票の格差問題では、憲法の「法の下の平等」が問題になりましたが、不平等な票の配分は憲法に反するのでしょうか。

「1つの選挙で見ると、持っている票の数は違う。しかし、一生涯で見れば、その人が若いときにはたくさん票を持っていて高齢になると少なくなるので、平等だろうと考えている。もし仮に日本国憲法が票数の差を『許さない』としたら、その条文を変えることも視野に入れて議論している」


――3つの投票制度の他にも、世代間の格差を補うために考えられる制度はありますか。

「こういった制度を導入すると提案したときに、高齢者に誤解していただきたくないのが、“高齢者が自分のことだけを考えて投票行動をしている”とは全く考えていないということだ。高齢者も、自分の子どもや孫世代のことを考えて投票している。したがって、そういう意識付けが可能になるような制度を作っていくことが大事。他方では、結婚しない方や子どもを持たない方も増えている。そういう方々が増えていくと、自分の子どもや孫を現実的に考えるのが難しくなるので、基盤は少しずつ失われていくのではないかと考えている」

(『ABEMAヒルズ』より)

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