少年マンガのような大勝利が、見るものの心を震わせた。将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Eリーグ第3試合、チーム渡辺とチーム藤井の対戦が7月23日に放送された。エントリートーナメントを勝ち上がって出場権を掴み、「下克上」を掲げた折田翔吾四段(32)、黒田尭之五段(25)、冨田誠也四段(26)が、完全無欠の藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、20)率いるチーム藤井に5勝1敗で勝利。本戦行きの切符を3人が力を合わせてもぎ取った。
エントリーチームは、ドラフト指名漏れした棋士がわずか3席の出場権をかけて戦った実力者ぞろい。そんな3人が放り込まれたのは、棋界の2トップ、藤井竜王と渡辺明名人(棋王、38)がリーダーとして名を連ねる予選Eリーグだった。事前の予想では、言わずもがな苦戦が見込まれていた。しかしチーム渡辺との予選第2試合で、エースの黒田五段の大躍進で星を集め、5勝3敗と善戦。敗れはしたものの、しっかりと経験値を積んだ。
予選第3試合では、過去のABEMAトーナメントで4連覇中の藤井竜王率いるスター軍団と対決。棋界の重鎮で永世名人資格保持者の森内俊之九段(52)、竜王3期の藤井猛九段(52)を前に、3人は一層緊張感を高めていた。ともに関西所属で修行時代から顔を合わせてきた3人。タイトル戦経験者はいないが、過酷なエントリートーナメントを突破した誇りと勢い、結束力はどのチームにも負けない。初戦では、元気印・冨田四段が振り飛車党の巨頭・藤井九段から嬉しい初勝利&白星を奪い、チームに勢いを持ち帰った。
続く第2試合では、いよいよ藤井竜王が登場。エントリーチームからは個人3連勝と波に乗る黒田五段が立ち向かったが、手厚い指し回しを前に阻まれすぐに1勝1敗に並ばれる結果に。しかし、失うものは何もないとばかりに勢いは衰えることなく、第3試合ではリーダーの折田四段が対局室へ向かった。対するは、初対戦となるレジェンド森内九段。臆することなく切れ味鋭い終盤力を見せつけ、すぐに星を取り返してみせた。
いよいよ潮流を掴んだエントリーチーム。そのチーム名「下克上」を体現するかのように、ここから圧巻の4連勝でチーム藤井を押し切って見せた。予選最終対局となった第6局では、折田四段と森内九段が再戦。序盤は後手の森内九段の趣向で変則的な横歩取りに。先に主導権を握って進めたが、折田四段は崩れることなく冷静に対応。▲7四歩と玉頭に手を付けて押し返した。最後まで落ち着いた玉捌きが光り、121手で森内九段を投了に追い込んだ。本戦への切符を手にした折田四段は、「このチームで引き続き戦えることがすごく嬉しい。力を合わせてみんなで進化していきたい」と語り、控室の冨田四段と黒田五段は、「勝ったー!やったー!」「感動しますね!!」と大興奮。ハイタッチの後、熱い抱擁を交わして喜びを爆発させた。
この“大金星”で、コメント欄は驚きと興奮のるつぼに。「めっちゃ感動した」「ジャイキリキターー!!」「これ優勝もあるんじゃないの!?」「悔しいけどこれは恐れ入りました」と大量の声が押し寄せていた。エントリーチームが予選突破を果たしたのは、これが初。大会4年連続の絶対王者・藤井竜王の連覇を阻み、いよいよその実力は折り紙付きのものとなった。次週は本戦、豊島将之九段(32)率いるチーム豊島と息をつく間はない。勇者たちの冒険の旅はこれからも続く。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)