エントリーチームの下剋上は「筋書きのないドラマ」ラノベ作家・白鳥士郎氏が心震える瞬間/将棋・ABEMAトーナメント
【映像】ABEMAトーナメント2023 ドラフト会議

 将棋の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」のドラフト会議が、4月1日に放送される。ドラフトにはリーダー棋士14人が参加し、2人ずつ指名して3人1組のチームを作る。最後の1チームは、指名されなかった棋士がトーナメントを行い、勝ち残った3人が「エントリーチーム」となる。昨年、このチームが令和の天才・藤井聡太竜王(王位、叡王、棋王、王将、棋聖、20)のチームを破り本戦に進んだから驚きだ。将棋を題材にしたライトノベル「りゅうおうのおしごと!」の作者・白鳥士郎氏は、この快進撃を「筋書きの書けないドラマ。すごく感動しました」と絶賛した。選ばれし者だけでなく、自らの手で晴れ舞台に駆け上がり、そして勝ち抜く下剋上は今年も起きるのか。

【映像】ABEMAトーナメント2023 ドラフト会議

 昨年、エントリートーナメントを勝ち抜いて本大会出場を決めたのは、折田翔吾五段(30)、    黒田尭之五段(26)、冨田誠也四段(27)の3人。折田五段は編入試験を経て念願のプロ入り、黒田五段と冨田四段はプロ歴が浅いながらも、年齢的にはどんどんと活躍していかないといけない棋士だ。勢いのある若手がしっかりと時間をかけて超早指しのフィッシャールールに対策を立てたことが功を奏したか、それとも適性か。藤井竜王だけでなく、渡辺明名人(38)がいる激戦の予選Eリーグに入ると、チーム渡辺にこそ敗れたが、チーム藤井を下す大金星。同年一番の番狂わせを起こした。

 白鳥士郎氏(以下、白鳥) 去年の大会で一番印象に残ったのはエントリーチームの下剋上ですよね。予選を突破してきて、勢いがある人、フィッシャーの適性がある人が出てきた。早指し棋戦でそれほど活躍している感じでもなかったのに、フィッシャーで勝つのは不思議な感じでした。一番感動したのは、チーム藤井に勝ったところですよね。どの対局も素晴らしかったですが、黒田先生が藤井竜王に勝って勝利にリーチをかけて、リーダーの折田先生が森内先生に勝った。控室で冨田先生と黒田先生がハイタッチしたシーンは、見ると今でも感動します。エントリーチームのシステムは、すごくいいですね。ドラフトも楽しみですが、そこから漏れた中でどの棋士が勝ち上がって、どんなチームができるのか予想ができないので、本当に楽しみです。

 昨年大会では渡辺名人が、当時まだ将棋ファンの間でもそこまで注目度が高くなかった渡辺和史六段(28)を指名すると大活躍、その後には公式戦でも躍進し2022年度の将棋大賞・連勝賞(20連勝)にも輝いた。注目度が高く、かつタイトルホルダーやA級棋士といったトップ棋士ともぶつかれるこの大会は、今やプロキャリアの浅い棋士にとっては登竜門のような位置づけも出ている。

 白鳥 ドラフトにかかる人は予想しやすいんですよね。勝率が高い人で、おそらく早指し適性がある人。そこから漏れて誰が出てくるか。去年活躍された方々は、ドラフトで指名される可能性は高いでしょうね。斎藤明日斗先生(五段)は、ABEMAトーナメントで注目されて、順位戦でも昇級されて、年度勝率も8割台と大爆発しています。ABEMAトーナメントで活躍して注目されて、公式戦でも活躍するというのは、男性ですがシンデレラ・ストーリーですね。

 今年の注目棋士ですが、プロになったばかり齊藤裕也四段を兄弟弟子の藤井竜王が選ぶのか。初めての同門棋士だし、藤井竜王はどうやらそういう方を選びそうなタイプだと思うんですよ。昨年も同じ藤井性の藤井猛九段を選んで、その後に同じ羽生世代の森内俊之九段を選んでいましたから。あと間違いなく名前が出るのが、徳田拳士四段。デビューからすごい勝率で勝ちまくっていますし、自分で「顔がいい」とも言っているので、注目に値するし、重複指名もあるんじゃないでしょうか。

 今や将棋界は、将棋ソフト(AI)で分析し研究するというのが当たり前の時代になっている。ただし持ち時間5分・1手指すごとに5秒加算という超早指しのフィッシャールールにおいては、ソフトが最善手を導き出すよりも、人間が瞬時に指す方が上回ることもあると言われている。特に詰むや詰まざるやの確認は、ソフトにも得手不得手があり、短時間になるほど人間が上回るケースもあるという。

 白鳥 私の予想では、棋士の読みの方が瞬間的にはAIを上回る感じになると思います。特に詰みが絡んだ局面だと、AIよりも棋士の方が正確に指している瞬間があるんじゃないかと。全ての対局でそうなるとは言えないですが。人間のすごさが見えるかもしれません。佐藤天彦先生(九段)もたまにおっしゃっていますが、藤井竜王だと瞬間的ならAIより深いところまで読める。長手数の詰みだと棋士の方が早いと思います。詰将棋解答選手権というものがありますが、あれも問題によっては棋士が勝ちますね。合駒が絡んでくると、AIはすごく遅いんです。すごくたくさん読むタイプだったりすると、パソコン次第でメモリが溢れて止まってしまうことがあるとも聞きます。

 最後に今年の大会の見どころを聞いた。昨年は絶対王者・藤井竜王も苦戦が続き初めて優勝を逃すどころか、予選リーグで敗退。関西棋士で揃えたチーム稲葉が、勝つごとに勢いを増して一気に優勝まで駆け上がった。

 白鳥 藤井竜王の成績がよくなかったのは、単純に疲れてるんじゃないですかね(笑)。他の棋士とは疲労度が全然違うと思うんですよ。公式戦やセレモニーのタイミングもあるでしょうし。体調次第でその日、その瞬間に手が見えるかが変わってくる。ファンはABEMAトーナメントにしろ公式戦にしろ、その日の体調はわからないじゃないですか。スポーツ選手も体調に左右されるのは当たり前ですからね。

 大会としては、今年もドラフトで呼ばれなかった棋士がどこまで行くのか。筋書きがない部分を楽しみたいです。筋書きがある部分については、リーダーの特色が見えてきたので、そのリーダーがどんな棋士を選ぶのか。人間関係も見えてきますし、関係がない人を選んで控え室や戦いを経て、人間関係が変わってそこから研究会をやるようになったりするじゃないですか。その棋士の成績が上がってきたら、そこで何かあったのかなとか。素のままの棋士の姿が見えられるのはすごく貴重で楽しみです。

◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
ABEMA/将棋チャンネルより)

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