監督に背いて結果を出したら次戦スタメン外 星野君が受けたのは社会の理不尽? 若新雄純「先生が“人間関係ってめんどくせえ”と言えれば活きる教材に」
【映像】道徳に残すべき?『星野君の二塁打』を議論【第2夜】
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 小学校の「道徳」の教科書から長い間教材として使われていた児童小説が2024年度から消えることになった。それが『星野君の二塁打』だ。

【映像】道徳に残すべき?『星野君の二塁打』を議論【第2夜】

 大事な野球の試合、同点で迎えた最終回の裏。ランナー一塁で打席を迎えた星野君は、監督から送りバントの指示を受ける。しかし「打てそうな気がする」と指示に背いて強打すると、結果的に二塁打となり、チームはサヨナラ勝ち。その後、監督は星野君に対し、チームワークの大切さを説き、ルールを破ったことを指摘。チームメイトは擁護するが、監督は罰として次の試合の欠場を言い渡した――。

 教科書ではこの物語から、ルールを守るのは何のためかを問いかけている。『ABEMA Prime』では三夜にわたってこのテーマを扱い、二夜目は元プロ野球選手を交えて議論を繰り広げた。

■「スポーツを教育目標に使うのはもうやめてみたらどうか」

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小林至(元プロ野球選手、桜美林大学健康福祉学群教授):野球は監督を中心とした指示命令系統が原則で、私自身も高校、大学、プロまでやったが、ベンチの指示に逆らうというのは考えたこともなかった。個人的にはスポーツを教育目標に使うのはもうやめてみたらどうかと思っている。管理型のツールとしてずっと使われてきたが、近年それはなくなってきた。また、戦術的、確率論的にも“ノーアウト一塁でバント”はあまり正しくない。これが道徳の教科書から消えるのは潮時なのかなと思った。

河崎環(コラムニスト):原作は終戦直後の1947年。軍隊的なものが一番良い統治の仕方だという感覚で、その古さをみんな言っている。子どもに道徳を教える上で、一つの球技のルールだけをメタファーにするのは、今の時代には限界なのかなと思う。

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若新雄純(プロデューサー・慶應大学特任准教授):家に原作の本がある。別の番組で教材としてどうなのかを議論したこともあるが、むしろ今こそ教材に残すのが面白いと思っている。是非をめぐってまさに今盛り上がっているが、これを本当は小学校でやるべきだ。“なぜルールを守る必要があるのか”という方向が決まった教材として使おうとするから時代に合わなくなったわけで、社会に残る古い考え方をさまざま議論する必要がある。道徳という科目は探求的であるべきだけど、先生が他の人と違う結論になることを恐れているとも思う。議論できなくなったから道徳の教材はチープになっていってしまったのではないか。

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久保駿貴(ABABA CEO):結局これは指導要領を書いて、先生方で“こういう方針でいきましょう”みたいな結論になっている。“これじゃチームプレーよくないよね”みたいな結論で教えている学校もあるのではないか。ただ、考えないといけないのは、軍国主義みたいな話は道徳の教材が変わっただけでは意味がない。例えば、幼稚園の運動会でビシッと並ぶとか、発達障害やギフテッドの子を伸ばしていけるような教育体制がないとか、そういうところから変わらないといけないと思う。

EXITりんたろー。:若新さんの話を聞いていて、先生の“MC力”が下がっているんじゃないかなって。

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若新:だから、先生の胆力が求められる。「ここだったら絶対にいける、という時に違う指示をされたら君らはどう思う?」「指示に背いたけど良い結果を出した時に、次の試合に出さないと言われて君たちはどう思う?」と問えるぐらいがいいと思う。

■「“社会はこういうことが繰り返される”というメッセージになれば、またこの教材が活きる」

久保:ほとんどの人が会社に入って働くわけだが、求められるのはチームでどれだけ成果を出すかということ。“チームプレーは大事だ”というメッセージがこの教材にあるなら、“ルールを破ってはいけない”というのは残すべき。もちろん多様性も大事だが、これまで偉人たちが積み上げてきた体験や経験みたいなところは伝えていきたいなと、個人的には思っている。

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若新:やはりひとつ視点を上げていくべき。チームに入ったらルールを守ることは大事だけど、“ルールは変えることができて初めて意味をなす”というのが最近の教育だ。例えば、この教材が理不尽だと思うなら、今後この野球チームはどういうルールに変えればいいだろうか? みたいな議論があってもいい。一方で、コミュニティやチームのルールが合わなかったら、その組織を離れたりチームを辞めることができるという自由を学ぶことも一個の教材だと思う。

平石直之(テレビ朝日アナウンサー):小学校の野球チームはそれができない。転校するの?という話になってしまう。

若新:そこでもう一個大事なのは、組織論というよりは人間関係論。自分が所属しているコミュニティが自分の思いどおりにはならない、自分のしたいようにはルールを決めてくれない人がいる。これを学校の先生が「人間関係ってめんどくせえ」と小学生に言えて、“次に出場できないとなった時、君は訴えに出るのか? 黙ってしょんぼりするのか? だけど、社会というのは常にこういうことが繰り返されるんだよ”みたいなメッセージになれば、またこの教材が活きると思う。

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平石:おっしゃるとおり。理不尽なことがあるということと、同じ場面がもう1回来た時にどうするのか。星野君どうするの!? 監督どうするの!?って。

小林:この教材はこれだけ多様な答えが導ける。私も大学教員で、近年は「教員はファシリテーターであれ」ということで、教員の在り方も変わらなきゃいけないというところで考えると、これは良い教材だ。時代を超えてアップデートしながらいろいろなかたちを作れると思う。

(『ABEMA Prime』より)

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