将棋の第81期名人戦七番勝負第5局が5月31日・6月1日の両日、長野県高山村の「緑霞山宿 藤井荘」で指され、藤井聡太竜王(王位、叡王、棋王、王将、棋聖、20)が渡辺明名人(39)に勝利した。この結果、シリーズ成績を4勝1敗として名人位の奪取に成功。藤井竜王は、谷川浩司十七世名人(61)が保持していた21歳2カ月の記録を更新し、20歳10カ月での最年少名人となった。さらに、本タイトルの獲得で七冠保持者に。羽生善治九段(52)が1996年2月に25歳4カ月で達成した以来、史上2人目の快挙となった。
【中継】藤井竜王VS渡辺名人 第5局終局後インタビューと解説(生中継中)
この勢いはもう誰にも止められない。藤井竜王が、初挑戦した名人戦七番勝負で偉業を達成した。前期は、初参戦した順位戦A級を7勝2敗で駆け抜け、プレーオフの末に挑戦権を獲得。谷川十七世名人が保持していた21歳2カ月の最年少名人更新のためには、わずか1期しかチャンスのなかった狭き門をこじ開け、七番勝負の舞台に上がった。向かうは名人3期の渡辺名人とただでさえ厳しい番勝負に加えて、藤井竜王は防衛戦の叡王戦五番勝負を同時に戦うハードスケジュールに身を置いていたが、4月に行われた第1・2局で連勝。第3局は渡辺名人に屈したものの、第4・5局を制し念願のタイトルを手にした。
本シリーズは、渡辺名人が全局で力戦に持ち込み、決着局となった第5局は渡辺名人の先手で矢倉対雁木の戦いに。藤井竜王が奪取に“王手”をかけカド番に追い込まれた渡辺名人だが、作戦巧者らしい細かな工夫を散りばめて前例を離れ、力戦へと展開した。難解な中盤戦では封じ手の手番をめぐってかけ引きが行われ、渡辺名人が定刻の約15分前で桂馬を跳ねて手番を後手へと渡した。解説陣も「相当な勝負所。本局で一番難しい局面」とコメントを残しており、名人の作戦に沿った進行と見られていた。
2日目に入ると互いに長考合戦に。少しでも踏み外せば大きくバランスを損なう繊細な終盤戦の入り口とあり、慎重に読みを入れて攻め合いへと発展していった。渡辺名人は、強く飛車を走ってじわりとリードを拡大。やや苦しそうな表情を見せた藤井竜王は、2枚の角を投入して勝負を決断した。
渡辺名人はいよいよ後手玉の動きを封じるため後手玉に王手で迫ったが、ここから流れは挑戦者側へ。ABEMAの中継に出演した広瀬章人八段(36)は、「(渡辺名人に)何か誤算があったのではないか」とコメントしていた。優勢に立った藤井竜王は、角の利きを活かしたラストスパートで先手玉を圧倒。最後は飛車打ちから押し切り、盤石の差し回しで勝利を飾った。シリーズ成績は4勝1敗だった。
初の名人位を獲得した藤井竜王は、「まだ実感は無いですが非常に嬉しく思いますし、重みのあるタイトルだと思うので、それにふさわしい将棋を指さなければという思いです。(名人位は)順位戦を一つずつ上がっていかなければならないので、それを一歩ずつ上ってくることが出来たという嬉しさはあります」と喜びを語った。
一方、3期保持した名人を失冠した渡辺名人は、「4局目5局目と負けた将棋の内容が特に悪かったので、そこが残念。負けた将棋が特にチャンスも少なかったので、こういう結果になるのは仕方がないのかなと思います」と静かに語った。
この結果、藤井竜王は20歳10カ月の最年少で名人位と史上2人目の七冠獲得とダブルで偉業を達成。さらには、史上5人目の「竜王名人」の獲得と、若き絶対王者が金字塔を並び打ち立てた。羽生九段が七冠制覇した1996年当時はタイトル数が7つだったことに対し、現在は全8タイトルに。藤井竜王が残る「王座」を獲得した場合は、史上初の八冠王が誕生することになる。休む間もなく、次戦は中3日の6月5日には自身初の海外対局となる防衛戦の棋聖戦五番勝負が開幕。誰も見たことのない新たな世界へ、若き絶対王者の更なる飛躍は留まるところを知らない。
◆藤井 聡太(ふじい・そうた) 2002年7月19日、愛知県瀬戸市出身。中学2年生時の2016年10月に史上最年少で四段昇段、史上5人目の中学生棋士となる。2020年度の第91期棋聖戦でタイトル初挑戦。渡辺明棋聖(当時)を破り、17歳11カ月で最年少タイトルホルダーとなった。以降獲得と防衛を重ねて、竜王2期、名人1期、王位3期、叡王3期、棋王1期、王将2期、棋聖3期の通算15期。2022年度には全4つの一般棋戦を制覇し、棋戦優勝は9回となった。第81期名人位の獲得により、20歳10カ月で最年少名人と史上2人目の七冠獲得を同時達成した。通算成績は326勝65敗、勝率は.8337。趣味は鉄道、チェス。
(ABEMA/将棋チャンネルより)