日本将棋連盟会長・羽生善治九段(53)が、今年6月の就任直後から掲げていた「将棋を通じての地域活性化」について、わずか半年の間に大きな仕掛けを動かし始める。11月17日に開催が発表された「ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治」。全国を8つのブロックに分け、各地域の出身や縁のある棋士がエントリーし、選ばれた棋士が団体戦を行うものだ。団体戦はトップ棋士が毎年ドラフトを行う「ABEMAトーナメント」があるが、今回は棋士が地元の誇りを背負って戦うもの。羽生九段には、大会そのものや、それに向けて各地域で行われるイベントなどによる活性化に大きな期待をかけている。
6月の会長就任会見から、将棋を通じていかに地域を活性化できるか、またどうすれば地方自治体の協力を得られるか考えてきた。将棋と言えば、将棋会館がある東京、大阪がメインで、近年では名古屋にも対局場ができた。各地には支部も存在し拠点にはなっているが、羽生九段からすればさらに広げる必要あると感じていた。「棋士の場合は活動が個人ですので、それぞれの出身や背景みたいなものが知られていない部分があります。この大会を通じて、多くの人に知っていただけたらうれしいです。また今回は対局だけではなくて、それぞれ地元、地域に行って動画撮影やイベントも開催される予定ですので、里帰りではないですが、そういうところも見てもらえたらうれしいです」と、単なる対局企画に収めるつもりはない。
将棋での地域活性化といえば、やはり真っ先に想像されるのが藤井聡太竜王・名人(王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖、21)だ。愛知県瀬戸市の出身で、最年少でのプロデビューから八冠独占まで、地元の商店街は活躍とともに盛り上がりを見せ、それが愛知県中、さらには東海地区、そして日本全国へと波及していった。タイトル戦で各地を転々する藤井竜王・名人が、対局中に食べたおやつ・食事が紹介されれば、あっという間に注文が殺到、品切れ続出というのもよく聞く話だ。「あのレベルはなかなか大変だと思いますけど(笑)。藤井さんのケースは地元の商店街が全面的に応援している雰囲気ができている。これは将棋に限らず、他のスポーツやいろいろなことでも大事な要素です。後援してくれている人たちがいて、いい循環が生まれていく形を、東海地区だけではなく他の場所でも少しずつ作り上げていきたいです」と、成功モデルを軸に他地域での展開も望んでいる。
今回は日本全国を8つのエリアに分けた。出身棋士の数、層の厚さからすれば東京が入る「関東B」、大阪が入る「関西B」が有利だが、藤井竜王・名人が入るだろう「中部」も、出身棋士が順当にエントリーすれば、一躍優勝候補に躍り出る。羽生九段は幼少期に引っ越して東京育ちではあるが、今回は出身地である埼玉県所沢市が含まれる「関東A」の監督も務める。「東京オリンピックの聖火リレーを所沢でした時、自分が小さいころに見たり、写真で残っていたりした街の風景が今と全然違ったので、そういう意味ですごく発展しているところもあるんだなと思いました」と振り返る。もちろん将棋でも出身者が多い埼玉・千葉を中心に、トップクラスで活躍する棋士も多いため、十分に戦える力は備えている。
会長職として多忙な日々は送りつつ、対局でも再びタイトル戦に出場しようかという勢いで活躍を続ける羽生九段。自身の名がついた地域を盛り上げるための大会に「初めての試みなので、どんな反響が帰ってくるかわかりません」と言いつつも「これを機に少しずつでも地域活性化だったり、新しい将棋ファンだったりが増えてくれればと思います。どうしてもイベントなどは都市部に集中してしまうので、違った方向性で将棋ファンの方にPRできる場にしたいです」と意気込んだ。大会がスタートする2024年は、日本将棋連盟創立100周年のメモリアルイヤー。会長・羽生九段が、全国を盛り上げるべく、これまで以上に指して、語ってと奔走する。
◆ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治 全国を8ブロックに分けた「地域チーム」によって競う団体戦。試合には監督とチームから選ばれた出場登録棋士の4人の計5人が参加可能。試合は5本先取の九番勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールール。試合は1試合以上出場する「先発棋士」と、チームが3敗してから途中交代できる「控え棋士」に分かれ、勝った棋士は次局にも出場する。先発棋士は1人目から順に3人目まで出場し、また1人目に戻る。途中交代し試合を離れた棋士の再出場は不可。大会は2つの予選リーグに4チームずつ分かれ、変則トーナメントで2勝すると本戦進出。ベスト4となる本戦は通常のトーナメント戦。
(ABEMA/将棋チャンネルより)