世の中にあふれている化学物質に接することで、思わぬ体調不良など健康被害が引き起こされることがある。「化学物質過敏症」に苦しむ女性に話を聞いた。
【映像】誰でも突然なり得る? 女性が「化学物質過敏症」になった“意外な”きっかけは?
「仕事にならないほど体調が悪くなる」
こう話すのは、5年前から化学物質過敏症に苦しむ伊藤雅美さん。最初に異常を感じたのは食べ物がきっかけだった。伊藤さんは「アレルギー反応のような咳が出て、気持ち悪くなった」と振り返る。
それまで普通に食べられていた魚を食べたときに体調が悪くなり、その後、野菜や果物など症状が出る食べ物が増えていった。最終的には29品目の食材に反応するようになったが、アレルギー検査では異常値が出なかった。最終的に専門医から「化学物質過敏症」の診断を受けた。
化学物質過敏症とは、大量または長期的に化学物質に触れることで、頭痛や吐き気、息苦しさなど多彩な症状が表れる病気である。伊藤さんは「酷くなると、お腹が痛くなり、全身にピリピリした感じが出るなど、様々な症状が出てくる」と語る。
原因となる物質に出くわさないよう注意を払う日々を送る伊藤さんだが、先月、新たな原因物質が襲った。「他人がアルコール消毒した後の空間に私が通り、アルコールを吸い込んだ。それがきっかけで頭痛、腹痛、咳が一気に押し寄せてきた」と振り返る。動けなくなり、何時間も意識を失っていたという。
今まで全く気にならなったアルコールだが、意識を失ったあとは少しでも吸い込むと意識が急変するように。伊藤さんも「一足飛びで悪くなった。ノーコントロール状態で『もうダメだ』という時には救急車を呼んでもらう」と症状を語る。
伊藤さんは除菌シートやホワイトボード用のマーカーペン、化粧品などのアルコール入りのものにも近付けなくなり、「電車で具合が悪くなったり、柔軟剤や洗剤の匂い、街中の香水の匂いに敏感になったりと、何がきっかけでいつダメになるのかという恐怖感を抱えている」と話す。
反応する物質の種類が増えることで化学物質過敏症による生活の制約は厳しくなる。
専門の外来が少ない中で、年間およそ500件もの患者を診察する京橋クリニックの山崎明男院長にも話を聞いた。山崎院長は「我々の生活に必要な化学物質に過敏に反応し、体のさまざまな症状を引き起こすのがこの病気の本体」と説明。
匂いを吸うことで喉が痛くなったり、頭痛や動悸、腹痛、吐き気、体全体に湿疹などの症状が現れる。さらには集中力の定価、記銘力記憶力の低下も起こるという。
山﨑院長によると化学物質過敏症は合成香料の影響で誘発されることが多いという。柔軟剤、シャンプー、香水などの化粧品、さらには文房具のインク、コピー用紙、新聞、教科書、塾の問題集などが原因になることも。
学校や職場の香りに耐えられず、休学や退職に追い込まれる人も多いという。「働けなくなることが患者にとって一番大きな問題。しかも周りがわかってくれないという状況が辛い。化学物質過敏症というのは『何かをやめなきゃいけない病気』とも言える」と山崎院長は語り、いかに早期に病気を早く発見し、対策を打つかが重要であると強調した。
原因となる化学物質に接触しないことが一番の対策。しかし、それを実行するのは容易ではない。化学物質過敏症の人は複数枚のマスクを着用し、ひどい場合は防毒マスクを使うこともあるという。外出もままならず、引きこもりがちになりメンタルも落ち込むことも。
山﨑院長も「死にそうになるが死ぬことはない。そう伝えると患者さんは少し安心するが働けなくなってしまう。それをどうするか」と説明。
化学物質過敏症に悩む伊藤さんは医療体制から見直してほしいと訴える。
「専門の先生、細かくわかってくれる先生方がまだまだ少ないことを目の当たりにしてきた。化学物質過敏症を医療として診てくれるシステムが早急に整うことを願っている」
1999年に作成された多種類化学物質過敏症(MCS)の(米国専門医による)診断合意事項は以下である。
1.微量な化学物質に反応する
2.関連性のない多種類の化学物質に反応を示す
3.原因物質の除去で症状は改善される
4.再現性を持って症状が出現する
5.慢性に経過する
6.症状は複数の器官・臓器にまたがる
TrustedCEO/連続起業家のファリザ・アビドヴァ氏は化学物質過敏症に対し、「オーガニックな商品が売れるマーケットが整ってきたため、化学メーカーも自然由来の商品を作るようになってきた。そして今は個人個人に向けた医療も進んできており、今まで知られてなかった病気に対しても様々なソリューションが開発されている」と希望を語った。
(『ABEMAヒルズ』より)
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