カスハラとは
「カスタマーハラスメント」の略称で、顧客等が従業員や企業に対して行う、暴行や脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為を指す。近年、サービス業を中心に深刻な問題として認識されるようになっている。
カスハラ事例
厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」の労働者調査によると、受けた行為の割合としては、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)」が52.0%、「名誉毀損・侮辱・ひどい暴言」が46.9%、「著しく不当な要求(金品の要求、土下座の強要等)」が24.9%、「脅迫」が14.6%と続く。
<時間拘束>
時間を超える長時間の拘束、居座り
長時間の電話
時間の拘束、業務に支障を及ぼす行為
<リピート型>
頻繁に来店し、その度にクレームを行う
度重なる電話
複数部署にまたがる複数回のクレーム
<暴言>
大声、暴言で執拗にオペレーターを責める
店内で大きな声をあげて秩序を乱す
大声での恫喝、罵声、暴言の繰り返し
<対応者の揚げ足取り>
電話対応での揚げ足取り
自身の要求を繰り返し、通ずる担当者は言質を捉える
同じ質問を繰り返し、対応のミスが出たところを責める
一方的にこちらの落ち度に対してのクレーム
当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な攻め立て
<脅迫>
脅迫的な言動、反社会的な言動
物を壊す、「殺す」といった発言による脅し
SNSやマスコミへの暴露をほのめかした脅し
<権威型>
優位な立場にいることを利用した暴言、特別扱いの要求
<SNSへの投稿>
インターネット上の投稿(従業員の氏名公開)
会社・社員の信用を毀損させる行為
<正当な理由のない過度な要求>
言いがかりによる金銭要求
私物(スマートフォン、PC等)の故障についての金銭要求
遅延したことによる運賃の値下げ要求
難癖をつけたキャンセル料の支払い、代金の返金要求
備品を過度に要求する(歯ブラシ10本要望する等)
入手困難な商品の過剰要求
制度上対応できないことへの要求
運行ルートへのクレーム、それに伴う遅延への苦情
契約内容を超えた過剰な要求
<コロナ禍に関連するもの>
マスク着用、消毒、窓開けに関する強い要望
マスクをしていない人への過度な注意の要望
顧客のマスクの着用拒否
<セクハラ>
特定の従業員へのつきまとい
従業員へのわいせつ行為や盗撮
<その他>
事務所(敷地内)への不法侵入
正当な理由のない業務スペースへの立ち入り
(出典:厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」)
ホームセンターで、「おい、○○どこだよ」と手を叩いて店員を呼ぶ、「何だよ、お前。わかんねーのかよ。使えねぇな」と言い捨てられた。
ラーメン店で、ラーメンに200本の爪楊枝を入れる嫌がらせや、1日数十回の「殺すぞ」といった迷惑電話などが2年続いた。オーナーは従業員などの安全を考慮し、店舗を閉めた。
カスハラの影響
カスハラによって受けた心身への影響として、全体では「怒りや不満、不安などを感じた」が67.6%、「仕事に対する意欲が減退した」が46.2%。また、何度も繰り返し経験した人では、「眠れなくなった」が21.2%、「通院したり服薬をした」が8.8%、「会社を休むことが増えた」が5.9%など、深刻な影響も出ている(出典:厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」労働者調査)。
「イヤな思いをして不安が強くなったり、職場に行きたくなくなるケースはまだマシなほうで、深刻になるとカスハラが原因で退職に至ったり、自ら死を選ぶような精神状態になるリスクがある。それほど重大な問題だ」(明星大学心理学部教授で臨床心理士の藤井靖氏/ABEMA TIMES『「店員に“つけているマスクをよこせ!”と要求」「いきなりビンタ」…“カスハラ客”対応策を臨床心理士に聞く 都の条例制定の意味は』より)
法的対応の可能性
傷害罪、暴行罪、脅迫罪、恐喝罪、未遂罪、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損及び業務妨害、威力業務妨害罪、不退去罪など。
カスハラへの対策・対応
厚労省は、事前の準備として、(1)事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発、(2)従業員(被害者)のための相談対応体制の整備、(3)対応方法・手順の策定、(4)社内対応ルールの従業員等への教育・研修。起こった際の対応として、(5)事実関係の正確な確認と事案への対応、(6)従業員への配慮の措置、(7)再発防止のための取り組み、(8)相談者のプライバシーを保護するなどの措置、などを推奨している。
「厚労省のマニュアルに書いてあることは“最大公約数”で、自由度が残されている。やはり業態・業種によって悪質クレーム、カスハラとされるラインは変わってくるので、指針は企業ベースで設けることが望ましい。クレーム・カスハラには一次対応が本当に重要だが、指針があればその場で判断もしやすくなる。最近では訴訟を見越して保険会社が企業向け商品も用意している。そうなるケースもあるし、企業が体制をとることは従業員の安心につながる。やはり従業員にとって最も辛いこととして耳にするのは、お客様から色々言われることよりも、上司や企業が自分の話に聞く耳を持ってくれないことだ。もちろんお客様も大切だが、その前に従業員をいかに守るのか。その姿勢を示すことが重要だと思う」(関西大学社会学部の池内裕教授/ABEMA TIMES『“お客様は神様”文化から、従業員を守る姿勢を示す時代に…厚労省も対策に乗り出す「カスハラ」問題』より)
カスハラ防止に向けた取り組み事例
AIとの対話を通して会話のトレーニングを行う「iRolePlay」。
ビジネス管理ツールを提供するヌーラボでは、「パワハラ防止法」が施行された2020年6月、「身体的な攻撃、精神的な攻撃などがあった場合、サポート停止の措置を行うことがある」とカスハラへの対応指針を明文化した。