先日、芸人が不同意性交の疑いで書類送検された時にも改めて問題視された「性的同意」。昨年には「同意のない性的行為は犯罪」と要件が明確化されたが、口頭で確認しても言った・言わない、無理やり言わされたなど、トラブルが後を絶たない。とはいえ書面に一筆もらうのも、実際には難しいところだ。
最近では「キロク」という性的同意記録サービスも生まれ、1万人超が登録。利用者は「後になってから『私はその気がなかった』と言われた事もあったので、身を守るために記録を残している」という声もあるが、まだまだ同意の取り方の理解は広まっておらず、またそもそも同意を取ること自体、必要派・不要派が分かれてもいる。『ABEMA Prime』では性的同意の「4原則」と昨年7月から施行された「不同意性交等罪」、これを踏まえた上での性的コミュニケーションについて議論した。
■性的同意の「4原則」とは
「性的同意」とは、全ての性的な行為に対して、お互いがその行為を積極的にしたいと望んでいるかを確認することをいう。性行為だけでなくキスやハグ、手をつなぐといった行為もその対象だ。背景には、互いの意思に反した性行為が横行し、無理やり性的行為をされる被害経験を持つ人が約1割(8.1%・内閣府調べ)にのぼることがある。例えば「あぁ…うん」はNG、「うん、いいよ!」はOKなど、確認をした際にも積極的な返事かどうかが、同意のポイントになる。
このポイントをまとめたものとして「性的同意の4原則」がある。(1)非強制性=NOと言える環境が整っている、(2)対等性=社会的地位や力関係に左右されない対等な関係である、(3)非継続性=1つの行為への同意は他の行為への同意を意味せず、その都度確認が必要 ※いつでも「やめて」と言える、(4)明確性=その行為が「したい」という明確で積極的な同意がある、というものだ。
助産師で性教育YouTuberのシオリーヌさんは「意図しない形で性的なスキンシップ・行為を強要してしまうことがないように、同意を取ることの必要性が最近ようやく広まってきた。4つの原則というのが法律に入っているわけではない。性的同意というものをより深く理解するために掲げているものかなと私は捉えている。言葉の認知度はかなり上がってきたなと捉えている。その中で、当然そのカルチャーに対する賛否の声が、今SNSをはじめ色々なところですごく広がってきている」と、性的同意の広まりを徐々に感じてきたという。
■「断ってもいいんだ」交際中の性行為に悩んだ女性
性的同意という言葉に救われたのが、男性との交際時に悩みを抱えていたほたさんだ。「言葉を知る前、婚活や恋活を頑張っていた時期があった。その頃は強固な思い込みを持っていて、結婚に至るまでの仲の良いカップルの間には、滞りなく行われる性行為があると信じていた。男性が女性に体を求めてきたタイミングでするのがベストだと考えていたので、いざ自分がお付き合いを始めて、お相手の男性が求めてきたら応じなければとちょっと頑張ってしまい、自分が本当にやりたいかどうかをあまり考えなかった」。
無理に応じたことで性行為そのものにネガティブな感情を持ち始めてしまい、それが相手にも伝わったのか、性行為を持った後に連絡が取れなくなるということが何回か続いたという。「体目当てだったのではと、勝手に落ち込む負のスパイラルに陥ってしまい、1人の人と長く付き合えない時期があった。苦手意識を克服したいと悩んだ時期に、性的同意という言葉を知って、お付き合いをしている間柄でも、性行為には同意が必要で『あの時、私は断ってもよかった』と思えると気がちょっと楽になった」と、性的同意に関する知識を得て、前向きになるきっかけが訪れた。
一方、Shunさんは誠実な交際ができていれば、性的同意は必要なく、むしろ意識しすぎることが未婚率の増加や、少子化に拍車をかけると考えている。「真剣に交際し関係を作っていれば、そこまで必要性はない。『(性的行為が)嫌だ』と思う関係値になっている時点で、そもそも違う。手間を省くようにシンプルさ、楽さを求めて時代は進んでいると思うが、それにちょっと逆行するような手間をかけていくことがあれば、『それだったら、もういいよ』となる。自分に自信がない人もいれば、一歩踏み出しにくい人もいる」と、男女の関係にブレーキをかける可能性も指摘した。さらに「アプリで同意を取るとかというよりは、まず信頼関係が大事。結局そこが成り立っていないから、作業的な同意が必要になって、人としての関わりではなくて関係性も作業化される。一人一人ちゃんと関係を作っていくのが、根本的に大事かなと思う」と述べた。
■「不同意性交等罪」施行で件数増加
昨夏に施行された「不同意性交等罪」の効果はどうか。元衆議院議員で弁護士の菅野志桜里氏は「夏に刑法が改正されて、性犯罪と認知された件数が増えた。今まで被害者なのか、訴えていいのかと迷っていた人が訴えられるようになったのは一つの変化」と評価した。反面、今後は冤罪のリスクもつきまとう。「同意が本当はあったはずなのに、後からトラブルになることもある。実際に起訴されても、一審で無罪になった例もある。訴えやすくなったメリットもあれば、デメリットの反作用もちゃんと見なければいけない。目撃者がいない、当人同士の水掛け論になる象徴的な犯罪なので、被害者側をケアする一方、本当にこれが立証できるのかというのは、かなり慎重に捜査する類いのもの。法律の網が広がった分、冤罪のリスクも増える」と語った。
パックンは、4原則と法律を分けて考えることの重要性を述べた。「同意の4原則が法律に含まれてしまったら、もう全ての恋愛がたぶん法律違反になってしまう。たとえば4原則の『対等性』の話であれば、一流企業の社長と結婚した瞬間、その社長は社会的名誉がかかっているから、すごく弱い立場。例えば自分の仕事を辞めて育児に専念するとしても、そこでもやっぱり頼る相手に依存してしまうから、もう対等の立場ではなくなる。(性行為を)断りづらい環境が今日あったとしても、明日明後日に変わってもおかしくない。それをいちいち合意性、合法性とかを審査して、それで何か嫌だって言って裁判にかけられたらもう恋愛どころか、きっと付き合いがゼロになる」。これには菅野氏も同意し「4原則は一つの目指すカルチャー、社会の姿としてみんなの頭にある程度共有できているといいよねというもの。一方で法律は、ここまでのことは求めていない、これを犯罪の要件にはしてないことは、しっかり分けてほしい」と語った。
■他人の性的同意、どうやって知る?
「性的同意」という言葉自体は広まりつつあるものの、実際に周囲の人々が、どうやって同意を取っているかわからない、というのも実態だ。ほたさんは「性的同意をどう取るのがスマートなのか、同意を取るのに雰囲気が変になるんじゃないかと気にするのは、サンプルが少ないから。他の人がどうやって同意を取っているのか私たちは知るチャンスがあまり少ない。恋愛ドラマでも、性行為のシーンはほのめかしで終わってしまう。丁寧に性的同意を取るところをもっと描いて、憧れ的な感じにしてくれれば、身近な人とも話題にしやすい」と提案した。ただ菅野氏は「ドラマや映画が社会のお手本のようになるのは抵抗がある。もちろんあってもいいけれど、映画やドラマは社会のルールを作るためのものではない。むしろルールの裏側を見せるところもあるので、お手本は別のところに求めた方がいいのでは」と慎重な姿勢も見せていた。
(『ABEMA Prime』より)
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