■“介護殺人”裁判担当の弁護士が指摘する原因と課題
東京スタートアップ法律事務所に所属する神尾尊礼弁護士は、6件の介護殺人で被告の弁護を担当してきた(現在も1件担当中)。そして、日本で初めて「介護殺人」で保釈を取り付けるなど、これまでに5件の「執行猶予付き判決」を手にしている。「自分が弁護を担当する時は100%執行猶予を目指す。それだけ『介護殺人』の被告には寄り添うべき背景がある」。
一方、弁護を担当する上では、「複雑な思いがある。最初に聞くときは、感情が揺さぶられる。しかし、裁判員は感情論で判断してくれない。だからこそ、プロとして一線を引き、客観的に説明しなければならない。心が揺れつつ、淡々と説明するのはいつもつらい」とも告白する。
執行猶予が付くか否かは、どこが分かれ目になるのか。「一番は期間の長さだ。介護殺人は基本的に、動機が一番の焦点になる。介護の期間や、被害者の症状の重さから、介護のつらさがどの程度だったか判断する」。また、「子どもが親を殺害する事例は、認知症のケースが多い。逆に親が子どもを殺害した事案は、発達障害や知的障害が多い」とした。
介護殺人の原因と課題として、まず「家族が面倒を見るもの」という価値観や思い込みから、男性の場合、一人で背負い孤立する傾向があること。また、老老介護など将来も残り少ないことへの諦めとして、「残り10年我慢して生きるなら、死んで楽になろう」と考えるケース。加えて、制度の利用や支援の申請もおっくうになり、高齢や苦悩から「精神的ダメージ」を抱え、支援申請すら面倒だと感じる(気力が湧かない)パターンもあると、神尾氏は指摘する。
対策については、「認知症の介護は、やはりつらい。介護する側は、社会から隔絶され、うつ症状が出てしまう。視野が狭くなり、人に頼る選択肢が思いつかなくなるため、周囲がアクションを起こす必要がある。自力で解決策を見つけるのは、ほぼ不可能。行政も含めてアプローチするのが大切だ」と訴えた。
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