■勝者も敗者もファンも涙
うれし涙の裏側で、悔し涙が印象的な日でもあった。ファイナル最終日には全チーム、全選手を対象としたシーズン振り返りの囲み取材が恒例になっている。ファイナルを戦った4チームは試合会場から閉会式に直行、終了してから順番に取材を受けることになる。試合終了から2時間近くが経過した後、惜しくも3位に終わった赤坂ドリブンズの取材が始まった。
鈴木たろう、浅見真紀(いずれも最高位戦)がそれぞれシーズンの感想を述べた後、ポストシーズンでは大苦戦した渡辺太(最高位戦)に順番が回ってきた。“ネット麻雀の神”とも呼ばれる実力者ながら、いつも穏やかな口調と笑顔で人と接することで周囲から「太」と愛される存在だ。「ポストシーズン終盤から相当苦しい結果が続いて、自分の大きいマイナスが結果として響くことになりました。(自身の)最終戦も最悪の結果になってしまって。正直(会場に)来る途中も自然と涙が出たりとか。でも最終戦…」。ここまで語ったところで急に「すいません…」と言葉に詰まると、その場で号泣し始めた。
渡辺の人となりを知るチーム関係者、報道陣も驚くほどの号泣ぶり。それだけ内に秘めた悔しさ、申し訳なさが大きかった証しでもあり、自ら言葉を発しているうちに堰を切るようにその思いが溢れたのだろう。もう一度語り始めるまで時間を要し「こんなにチームメイトの麻雀で一喜一憂できるのは貴重な経験だったし、悔しい結果でしたがこのチームで戦えたのは本当によかったです」と続けたが、その後もしばらく涙が引かなかった。
優勝を逃した重さが、周囲の様子を見たことで重くなったのが最終戦に出たリーダー園田賢(最高位戦)だ。試合終了後「会場を出たらチームのみんながいて(浅見)真紀が泣いていた」と明かし、囲み取材で渡辺の涙を見て「大人がこんなに涙を流すんだと思いました」と、いつもの明るい口調とはまるで違うトーンで振り返った。また閉会式では赤坂ドリブンズを応援する多くのファンを目の当たりにした。「実際に目の前にたくさんいて、中には泣いている人がいて、『頑張ったね』と言ってくれる人がいて、泣きそうになりました。同時にこの試合だけは絶対勝たなきゃダメだったなと思いました」。ファンを悔し涙ではなくうれし涙できなかったことが、園田の胸を突いた。その分、ファンのありがたみも身に沁みた。
麻雀はもともと孤高の戦いだった。試合は個人戦で、プロ団体の戦いも今ほど多くのファンに見届けられる環境はなく、一般のファンの前で試合を披露できるようになったのも、つい最近の話だ。そこに仲間と戦う「団体戦」という要素を入れ、かつファンと接するパブリックビューイングなどのイベントを重要視したMリーグは、従来型の選手とファンとは異なる関係を築きつつある。限られた世界の熱狂をより外に伝えることをテーマにした「この熱狂を外へ」は7年の時を重ねて、外へ広げるだけでなく思いをつなぐこともできるようになった。その形の一つが選手とファンが同時に流した涙だった。
(ABEMA/麻雀チャンネルより)




