「2040年には氷河期世代の引退が…」

基礎年金の底上げ案
拡大する

 国民年金は自営業者のものというイメージが残っているが、現在の国民年金は20歳以上60歳未満のすべての国民が加入するものだ。そのため、厚生年金加入者も保険料の一部を国民年金に支払っており、給付の際には基礎年金として扱われる。厚生年金の積み立てと国庫を財源に行われる基礎年金の底上げでは、会社員などの国民年金第2号被保険者の基礎年金にも充てられるのである。

 一方で、厚生年金に加入したことがない人なども厚生年金の積立金によって恩恵を受ける、と考えれば、やはり「厚生年金からの流用」がゼロとは言えない。ただ、駒村教授は「流用」にあたる部分は全体としてはごく一部であり、逆に基礎年金底上げを「しなかった場合」の財政負担の可能性も考えて合理的に判断する必要があると話す。

「2040年には氷河期世代の引退が始まる。年金は過去の賃金に比例するが、この世代は前後の世代に比べても労働条件が良くなく、もらえる金額が低い。低いところからさらにもう1段下がるということは社会的な問題が拡大するので、いまこれを阻止する準備をしておかなければならない」

 2024年度の財政検証の結果、2057年の現役世代の収入と比較した所得代替率は、基礎年金では3割程度落ち込むことが判明した。氷河期世代では厚生年金部分が少ない人も多いと想定されるため、基礎年金の水準を維持するために検討されたのが「底上げ案」である。

 では、その水準が改善されなかった場合、どのようなことが起きるのか。駒村教授は「下がるのを放っておけば、生活保護などで膨大な国費が発生するかもしれない」と指摘する。

「生活保護は国民全体の消費動向によって決まる。年金よりも生活保護が多いという乖離幅・逆転現象が大きくなれば、国民の権利として生活保護は受給できることから、さらに申請する人が増えてくるだろう。団塊ジュニア世代、氷河期世代は1学年200万人いる。さらに男性の50歳時点での未婚率が30%近くになっており“お一人様”も多く、生活保護が増える要件がたくさんある」

 生活保護が増加すれば財源が必要になる。また生活保護が必要なのに受給ができず放置されれば、社会の秩序に大きな影響を与えることになるという。

「年金受給総額下がる世代」への対応は?
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