「マクロとミクロを混同するのは愚か」西田亮介氏の指摘
日本大学危機管理学部教授で東京科学大学特任教授の西田亮介氏は「年金の問題を考えるときに、マクロ(年金の制度)の問題と、ミクロ(個人)の問題を混同しない」ことが重要だと指摘する。
「制度としての合理性ではなく、マクロのモデル例を聞いて直ちに自分が損を『する・しない』に反応してしまいがちだが、自分が何歳まで生きるか、また各人の加入状況(期間)、収入も違うので、最終的に個人が損をするか、得をするかは、誰にもわからない。そもそも年金は『保険』で、リスクをヘッジするためにある」
「今の制度が無駄だとか、自分たちにとって利益がないなどと直ちに考えない方がいい。そのような議論をするのであれば、まずは仕組みをちゃんと理解することが大事」
ミクロ=個人で見た場合、厚生年金加入者にとっては積立金の「流用」がゼロではないことは「損」である。さらに国庫負担も発生するが、今回の案をマクロ=制度としてみた場合はどうか。
「流用といえば流用かもしれないが、スケールで考えるべきだ。次の年金財政検証を経てからのことなのでまだはっきり決まっているわけではないが、仮に基礎年金底上げ案で国費も含めて2兆円が必要になったとしても、年金の積立金は約250兆円、1年間の年金の額は約50兆円という規模感だ。さらに積立金は運用もされている。年金が足りなくなって生活保護の申請が増加すれば、そちらの原資は税金である。税負担が増加するよりも、積み立てている分もを活用して、マクロ=制度の合理性を改善することは、十分にリーズナブルだ」
基礎年金底上げは、一度は法案からなくなったものが修正で復活し、合意に至った。一連の動きをどう見るか。
「7月には参院選もある。『流用』が誤解だったとしても、少数与党で極めて不安定な現状では国民に人気のない政策はやりたくない。また、生涯の年金受給額が減るのは与党支持の傾向がある年長世代であることから『今はやりたくない』という動機づけが働いてもおかしくない。」
「本当は国民の代表として、国民にとってうれしくないことも含めてわかりやすく説明するのが政治家の仕事だ。しかし、今は『手取りを増やす』『社会保障費を減らす』など本当に短期的な政策の話しかしていない。それだけではなくて、難しい話や不人気な話もするべきだ」
(『ABEMAヒルズ』より)
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