■LiDの要因は 専門家「まずは耳鼻科で検査を」
これまで延べ5000人の当事者を診てきたLiD研究の第一人者である、大阪公立大学大学院の阪本浩一特任教授は、「通常の聴力検査では正常だが、複数人の会話や、周囲がうるさいなどのシチュエーションで、通常の人より聞き取りが悪くなる状態を指す」と説明する。
そして、「よく『聞こえているじゃないか』と言われるが、聞くことに対するリソースがすごくかかる。通常の人が10のうち2程度だったとして、LiDの方は6ぐらいかかる。補聴援助システムはその負荷を下げるようなものだ。マイクがなくても聞こえるが、あれば集中力に割くリソースが減る。そこを考えてもらいたい」と問いかける。
LiDの要因としては、「注意力・集中力に欠ける」「ワーキングメモリが弱い(長文の記憶ができないなど)」「処理速度が遅く、理解が追い付かないなど」といった発達機能の偏りや、心理的な問題(抑うつや不安も)、精神疾患、事故や病気による脳の損傷などがある。
また、同じような症状に悩む人も多いようだ。会話が成立しない、かみ合わないと指摘される若者や、注意力に欠ける「ADHD」やニュアンスが理解できない「自閉スペクトラム症」といった発達障害、認知機能やコミュニケーション力が困難となり会話についていけない「境界知能」などがある。
阪本氏は「ASDやADHDとLiDは、同じではないかと最初は言われていた」と説明する。「研究を始める時に『結局は発達障害になるのでは』と言われたが、研究した結果、ASDやADHDと診断できるのは、全体の30%程度だった。残りの70%のうち、ほぼ半分は発達面のでこぼこがあり、発達障害の人もいれば、そうでない人もいる」。
聞き取りに関する特性にもバリエーションがあり、「聞いて覚える短期記憶が、逆に高い人もいる。ただ、そうした人も、聞きながら次の処理へ移る過程がすごく遅い場合がある。聞いて覚えるが、処理できずに途中で忘れるタイプもある」。しかし、「タイプまで調べると診断基準が難しくなる」ため、「今回作った基準では、『きちんと聞こえていて、静かな所では言葉もちゃんと聞き取れる』『でも自覚症状はある』の2点で診断できるようにした」と話す。
それでも、まだLiDの認知度は低い。「僕らの調査では、耳鼻咽喉科の半分以上が知っている。診られる先生も増えてきているが、概念は知っていても診てくれる先生はまだ少ない。精神科医でも診てくれるが、これはやはり『聞こえの問題』だ。5〜10%は軽度の難聴を持っているため、それを耳鼻科で鑑別しないといけない。補聴器をすればもっと聞こえるようになるかもしれないのに、精神科で治療せずにLiDと言われてしまう。まずは耳鼻科で聴覚が正常だと分かってから、LiDの話をしないといけない」と説いた。(『ABEMA Prime』より)
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