■家庭科教育は「未来の自分の生活のために必要」

 日本家庭科教育学会会長の鈴木明子氏は、家庭科は「未来の自分の生活のために必要」と考えている。例えば、調理実習や離婚のロールプレイなどは授業の1回きりでも経験のベースになる上に、卒業後の将来設計にも役立つ、家事に対する「価値」を考えるなどジェンダーバイアスや多様性を学ぶことにもつながると捉えている。

高校の家庭科で習う内容
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 授業で扱う内容については、「今の家庭科は、『人の一生と家族・家庭生活』『衣食住の生活の自立と設計』『消費生活と環境』という3つの枠組みで整理されていて、投資やクレジット、消費者金融は3つ目に当たるだろう。小中高とも体系的に教えられるようになっている」と話す。

 また、「子どもに関心がないことをつらつらと並べて、網羅的に教えても何も面白くない。特に家庭科は生活に密着した教科として、子どもの関心や課題に対してどんな情報が必要かということで、何をどこまで教えるかは先生が選ぶべきだと思う。先生も自分が得意なところから生活を切っていけばいいのではないか」と、ある程度の裁量を現場に持たせる必要を示唆した。

■家庭科を20年以上教えた元高校教師「今の家庭科は家政学外の内容もある」

 元高校教師で家庭科を20年以上教えてきた梶原公子氏は、その経験から現在のあり方に疑問を抱いている。授業内容の体系化は「されていない」とし、「例えば生物なら生物学のように、どの教科も“学”という確立されたものがあってできている。しかし、家庭科が家政学に基づいてるかというと、その中に入っていないものもある」と指摘する。

戦後の高校家庭科の変遷
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 また、戦後1947年に新教科「家庭」が創設されてから、1960年に「普通科女子」は4単位必修、1970年に「すべての女子」は4単位必修、1989年に学習指導要領で男女とも4単位必修(実施は1994年から)となった変遷を踏まえ、「“男女の役割”を植え付けるもの」との認識を示す。女性は主婦となり家事・育児・介護を当然行うという“態度”を身に着けさせたいという、国や企業に都合よくコントロールしやすい人間を育てる内容であり、「自立(男が社会に出て家族を養うために稼ぐ)」と「共生(女が家庭に入って家庭を守る)」の教育は性別分担家庭をつくることにつながるとの見方を示した。

「国連から“日本は女子だけに家庭科を教える”というバッシングを受け、主婦養成教科をやめて男女平等教育にするというのが主眼だった。そこから30年経ってもジェンダーギャップ指数は118位で、結果がこれかと」

 これに鈴木氏は、「男女共修と、教育の内容が増えたこととは別で考えないといけない」としつつ、「家庭科はその時その時の社会の変化で、風見鶏のように振り回されてきた。その時代には役立ってきたかもしれないが、ジェンダーバイアスといった固定的な価値観を助長する1つのきっかけになったことも否めないと思う。ただ、家庭科関係者、教育関係者は子どもたちの成長とともに、社会の変容とは別に必要なことも考えてきた」と述べた。

■家庭科は学校で教えるべきか あおちゃんぺ「それは恵まれた側の意見」
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