■子育て中の三代目が抱える葛藤と描く未来

【写真・画像】「命がけでやるしかない」過酷な小屋開け、水源確保、時には救助作業も 「奇跡の山小屋」目指して…スタッフが守る“登山者の安全” 5枚目
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穂高岳山荘の三代目・今田恵さん

 恵さんは2人の娘がいる母親。子育てもあり、山荘へ行けるのは年に数日。母になって11年。三代目として、山荘で働けないという申し訳なさがあった。「やっぱり八郎さん(前支配人)とか裕二さんを見ていて、悔しいっていうか、うらやましいじゃないけど。どんだけ大変だったんだろうということもわかるから。うらやましいし、つらかったんだろうなっていうのもあるし」(恵さん)

 穂高岳山荘のバックヤードは夕日を望む「夕焼け劇場」として登山者に開放されている。山小屋にこだわり続けた父・英雄さんが15年かけて改修し、2022年に完成した。一年後、理想の山小屋を作り終えたかのように、英雄さんは亡くなった。

「去年(2023年)はね、毎日英雄さんから電話きたのよ。(山荘の状況を)知りたくて知りたくて。普段仕事しているときっていうか、いまでもそうですけど、英雄さんだったらどう考えて、どう行動するかなって、すごく想像して」(中林さん)

「そうだろうなって思うからこそ、安心していられる」(恵さん)

 厳しくも美しい自然に、山荘は寄り添い、建っている。「そもそも山小屋があること自体が、『自然な山の楽しみ方じゃないんじゃないの?』って言われたら、『そうなんですよ』っていう話。でも山小屋があることによって初めて景色を見れたっていうこともあると思うので、ここには(山荘を)建てたので、そういう楽しみ方を出来るようにこれからもしていきたい」(恵さん)

 北アルプス・穂高。ここで山荘は続いていく──。

(長野朝日放送制作 テレメンタリー『山と生きていく 私』より)

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