■命がけで確保する「天命水」

【写真・画像】「命がけでやるしかない」過酷な小屋開け、水源確保、時には救助作業も 「奇跡の山小屋」目指して…スタッフが守る“登山者の安全” 3枚目
拡大する

水源掘りをするスタッフ

 作業開始から10日、営業が始まった。上高地は北アルプスの玄関口で、ここから奥穂高岳、そして穂高岳山荘までは2日かかる。

 1925年、穂高の名ガイドと呼ばれた恵さんの祖父・今田重太郎(じゅうたろう)さんが、避難小屋として穂高岳山荘を築いた。二代目は、恵さんの父・英雄さんだ。

「私が入った頃、ほとんど対立ばっかり。重太郎は働いて、働いて、一生懸命お金を儲けようとしていたけど、私は『お金は使うためにあるんだ』と言ってどんどん使う。ほとんどの金は皆、山小屋へ投資していく」(英雄さん)

 山荘は、英雄さんの理想とともにどんどん変わっていった。英雄さんは「うちの建物は敷地面積の中から建蔽率が30パーセント。こんなところはどこにもない。45年もかけて全面石畳にして石組をして。うちの自慢は石だ」と語る。

 風力や太陽光発電などもいち早く取り入れた。「あれだけ大きい小屋のエネルギーの30パーセントを自然エネルギーでまかなうなんてことは奇跡に近いんだ」(英雄さん)

 水も自然から得ていて、屋根を伝う雨を集めて生活水にしている。ただ、繁忙期は1日でおよそ6トンの水が消費されるため、雨水だけではとてもまかないきれない。水を確保するため、山荘には欠かせない仕事がある。それが、水源掘りだ。

 標高3000メートルに水が湧いており、水源は雪渓の奥14メートル。上と下に分かれ、雪を取り除き水源まで道を作っていく。これがかなりの重労働になるという。以前は水源まで、ただまっすぐトンネルを掘っていた。重太郎さんが水源を見つけて以来、続けて来た方法だった。

トンネルが崩落する事故も…
この記事の写真をみる(8枚)