ある日、1人の女性が病院を訪ねてきた。西日本に住む優子さん(仮名・成人)だ。同居する母親と子どもも一緒だ。

 1歳半を迎えた女の子。優子さんが内密出産をした後、自ら育てると思い直した。成長を直接報告したいと思っていたそうだ。

「うわー大きくなった!かわいい!」(真琴さん)
「よかった。愛されているという感じで。なかなかお子さんを見られることがないので、赤ちゃんの時だけなので嬉しいです」(蓮田院長)
「ありがとうございます」(優子さん)

 妊娠が分かった時、優子さんは学生だった。「元彼との子どもなんですけど、もう別れているし、他人事で『知らん』みたいな感じだった。おろせる期間が過ぎていたので、赤ちゃんとこのまま2人で死んじゃおうかなって何回も考えました」(優子さん)

 家族とほとんどコミュニケーションを取っておらず、助けを求めることは考えられなかったと当時を振り返る。産後は可能な限り、病室で赤ちゃんと過ごした。「本当にかわいくて、この子が大きくなるのを見られないのかと思うとめちゃくちゃ寂しくて」。

「朝お部屋に来ると目が腫れていたりとか、ご飯に全然手を付けていなくて置いていたりするとやっぱり心配でしたし、すごく悩んでいたね」(真琴さん)

「育てるっていう選択肢がもともと頭になかったことを選択肢としてあげていただいて」(優子さん)

 両親に出産を打ち明け、自ら育てることを決意した。現在は実家で両親の支援を受けながら子どもを育てている。「話せるようになった時とかいろいろなことができるようになった時、産んでよかったな、かわいいなって思います。仲良しの親子になりたい」(優子さん)

 優子さんの告白を、母親はどのように受け止めたのだろうか。「なんとなく予感はしていたんです。聞いても何も言わないから何も言えず。反省するところで、言えない雰囲気をつくってしまっていたのかなと。(慈恵病院で)いろいろ話を聞いていただいて、自分で育てるって決意をしてくれたのはありがたく思っています」。

「産んだことでいろいろなことが良い方向に変わった。赤ちゃんを殺しちゃったりとかも全然あった未来なので」(優子さん)

見えてきた新たな課題
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