■認知症の妻を支える苦しみ、そして演劇との出会い

認知症の妻・郁子さん(左)、岡田忠雄さん(右)
拡大する

認知症の妻・郁子さん(左)、岡田忠雄さん(右)

 劇団OiBokkeShiは、老いや認知症をテーマに2014年から岡山県を拠点に活動している。“おかじい”こと看板俳優・岡田さんの実際の介護生活を演劇にした作品もある。この作品で20代の女性が演じているのは、岡田さんが介護している「認知症の妻」。自身が20代と思い込み、夫のことも忘れている。

「今、正雄さんと言ったな」(岡田さん)
「正雄さん、迎えにくるけ」(認知症の妻を演じる金定さん)
「待ちなさいよ。これ、誰?」(岡田さん)
「バイトのおじいちゃんじゃろ」(金定さん)
「もう1回」(岡田さん)
「寿司屋の皿洗いしよる、バイトのおじいちゃんじゃろ」(金定さん)
「いい加減にしなさい」(岡田さん)
「は?ちょっと。なんだ、くそじじい、離せや」(金定さん)

 岡田さんは同い年で、認知症の妻・郁子さんを自宅で介護していた。当初、妻の変化を受け入れられなかったという。

「なにしよん?寒いのに」(岡田さん)
「帰る準備を。帰らないけん」(郁子さん)
「帰る?」(岡田さん)
「帰るよ、家」(郁子さん)
「どこへ帰るん?」(岡田さん)
「家がないんかな?」(郁子さん)
「うちの家がない?」(岡田さん)
「ないんかな?って聞いてる」(郁子さん)
「明日帰ろう。はい、寝ましょう」(岡田さん)
「ああああああ!もう!我が家に帰るのがどうしてそんなにいけんの!」(郁子さん)
「明日にしよう」(岡田さん)
「あああああ!もう!恐ろしい!誰かきて!どうしたん、このおっさん」(郁子さん)

 ごはんを作るなど身の回りの世話を15年以上していた。それでも理不尽な言動に岡田さんの日記には当時の怒りや戸惑いが書かれている。

「ボケババアが大爆発した。鍋のふたを投げ捨てられた、パンも玄関へ投げ捨てられた。今日こそ殺してやろうかと身がふるえた」(岡田さんの日記より)

介護の苦しみを救った“演劇”との出会い
この記事の写真をみる(6枚)