この介護の苦しみを救ったのは劇団の主宰で、介護福祉士の菅原直樹さんとの出会いだった。菅原さんは「認知症の方の、こちらからするとおかしな言動、つまり“ぼけ”を受け入れるのか、正すのかという時に受け入れた方がいいのではないか(と思った)」と語る。

 2017年、岡田さんは88歳の時に菅原さんが開くワークショップに参加したことをきっかけに、介護に“演技”を取り入れるようになった。

「元気?」(岡田さん)
「元気じゃ」(郁子さん)
「郁ちゃんは今なんぼかな?」(岡田さん)
「何、私?まだ、20なんぼと思うよ」(郁子さん)
「はははは。驚いたねー。わしゃ忘れたんよ、自分の年を」(岡田さん)
「はははは。年はなんぼでもいいと思うから。だから、年より健康じゃな」(郁子さん)
「あ、そう」(岡田さん)
「私はそうです」(郁子さん)
「へー。いいこと言うたな」(岡田さん)
「だからな、自分の年は気にせんの」(郁子さん)
「ああ、自分の年を気にせんの?」(岡田さん)
「気にせんの」(郁子さん)

 妻が見ている世界を否定せず演技で受け入れることで再び笑い合えるようになった。そんな岡田さん夫婦の現実がそのまま作品になった。

「あれ?何してんだよ」(岡田さん)
「正雄さんとはぐれたんよ」(認知症の妻を演じる20代の金定さん)
「正雄さんって誰?」(岡田さん)
「彼氏」(金定さん)
「は?」(岡田さん)
「彼氏」(金定さん)
「彼氏!かわいい彼氏を探したる」(岡田さん)
「ははは。じゃあ行こうか。なんかデートみたいじゃな」(金定さん)
「どこ行ったんじゃろうか」(岡田さん)

老いとの闘いと奪われた「生きがい」
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