■「一個人の問題」と判断され情報非開示

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 事故当時の詳細を記した資料などは両親に渡されていなかった。緋沙子さんは「あの時、風邪気味で気を付けてほしいって言っていて、気を付けてもらっていての事故なので、保育園でもやってもらっていたのはわかる。これ以上できなかったのもわかるけど、できれば元気に帰してほしかったなっていうのがあって……」と涙ぐむ。

 事故後、凰ちゃんが通う認定こども園で事故に関するプリントが配られた。バナナを誤嚥したことは書かれているが、後遺症については触れられていない。緋沙子さんは「あの書面1枚で、そのあとどうなりました、というのはないから、凰ちゃんがこうなって帰ってきたのを誰も知らない」と訴える。

「『なんで凰ちゃんのことはニュースにならないの?』『保育園の事故でしょ?』と言われることが多くなってきて、市に行って『周知してほしい』という話をしたら、『一個人の問題だから』というのと、『もしかしたら凰ちゃんの持っていた疾患でこうなったのかもしれないから。』『そうだと園の責任ではないから、あんまり言えないです』という話をされた」(緋沙子さん)

 岩手朝日テレビが羽藤さんと凰ちゃんの現状を報道すると、視聴者からは様々な疑問の声が寄せられた。こども園を所管する北上市に対して情報開示請求を行ったが、現時点で事故に関する詳細は、明らかにされていない。こども園側にも取材を申し込んだが「法人の方針でお答えできません。申し訳ございません」との回答だった。

 同じ北上市内でこども園を経営する男性は、市やこども園側の対応を疑問視している。「どうしてそんな情報が我々に来なかったのか、私にはちょっと理解できなかった。すごく疑問に思っていた。情報をしっかりと提供してもらって、それを専門的な立場で検証して、科学的に分析して、それらを日常の仕事の中に落とし込むようなことをしていってほしい」(北上市内でこども園を経営する男性 ※事故があった園ではない)

 こども家庭庁によると、教育保育施設での誤嚥による窒息事故は、パンやリンゴなど身近な食べ物も原因となっていて、2020年から5年連続で意識不明や死亡に至る事故が続いている。

介護の日常と、検証されない事故の背景
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