■「親たちは子どもに聖人君主であってほしい」
なぜ、日本人はこうした「ずる賢さ」に抵抗を感じるのか。コラムニストの河崎環は、日本人が持つ特有の性質を指摘する。「日本人には遵法精神があり、ルールに書かれていることは『そうでなければならない』となり、さらにはルールに書かれていないことまで空気を読み、行間を読んで抑制してしまう」と過剰に反応するケースもあると述べた。
鄭氏もこれに同意し、日本の育成年代における「親の介入」を「親ブロック」と呼び、実情を指摘する。「親たちは自分の子どもをサッカーする時、汚いプレーをせず聖人君主であってほしいと思っている。ここ止めないとヤバいという時、タクティカルファウル(戦略的ファウル)を子どもがしたら、親がめちゃめちゃ文句を言う。僕は、それを『親ブロック』だと思う」。教育としてのスポーツと、勝負としてのスポーツのジレンマが、日本人の「したたかさ」を阻害している可能性も説いた。
スポーツにおけるルールと駆け引きの議論に対し、近畿大学 情報学研究所 所長の夏野剛氏はビジネスシーンとの共通点と相違点を提示する。「例えば税金の仕組みなら、あらゆる人はなるべく逃れようとしてギリギリのところをやる。全てチェックできるわけがないから、やはりグレーゾーンがあるのは当たり前」。
ただし、夏野はビジネス特有の側面として「信頼関係」を挙げる。スポーツが短期決戦で勝敗、順位がつくのに対し、ビジネスは「その時は勝ったけど、その後の信頼関係を築けないことによって、マイナスになることもある」ため、長期的な視点が必要だとしていた。
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