■恩師からの助言と取り戻した“自分らしさ”
一方、瑛士さんは、かつて『ROCKET』で自分の絵を見てもらっていた恩師、一般社団法人シブヤフォントクリエイティブディレクターのライラ・かセム先生を訪ねた。
ライラ先生は瑛士さんの絵本をめくり、「なんか瑛士っぽくないなあ……これで自分がこうじゃないなっていうのはたぶん分かったよね」「プロポーションもグダグダだし。これは正直誰でもできちゃう絵かな。私はワクワクしないかな」と語る。
ライラ先生が「こういうのが印象的」と過去の絵を指すと、瑛士さんは「いろいろな歴史だったり、そういったものもすごく好きなので」と反応。するとライラ先生は「じゃあこれじゃん!これやればいいじゃん!なんでこれ(絵本)やるの?これでいいんじゃないの?」と尋ねる。瑛士さんが沈黙していると、ライラ先生は「濱口瑛士という絵の特徴をもうそろそろ1個決めてやっていく」とアドバイスした。
瑛士さんが久しぶりにキャンバスと向き合った。あの頃のように好きな絵を描こう。人を描いたことが葛藤の始まりだった。それでも筆は人へと向かう。
大好きな祖母を亡くしたばかりの瑛士さん。描いたのはその寂しさと、未来を前に立ちすくむ自分自身。初めて、絵に内面を込めた。「これで完成かな」。自分の内面に初めて踏み込んだ1枚だ。
「人がいない孤独感、迷いを感じさせるたたずまい。ぐるぐるしたものは、これから自分がどういう絵を描いていきたいんだろうっていう、自分の在り方への問い―」(瑛士さん)
黄色い空には、久しぶりに自分らしさを込めた。「あんまり空を青く塗るのが好きではなく、想像の世界であるということは、すなわち自由であると。やっぱりあえて見えることと違うものを描きたいと思うし、それがやっぱり絵を描くことの醍醐味だと思う」。
2025年12月、この絵をメインに個展を開いた。訪れた客の中には絵を購入する人も。「すごくすごくすごく嬉しいです。感慨深いです」「はあーー(ため息)目が離せないです」と感嘆の声を漏らす人もいた。
この日、思いがけない訪問があった。やってきたのは『ROCKET』時代の旧友、映像を作り続けてきた永冨士陸玖さんだ。
瑛士さんが「あの頃は人と喋るのがダメな人間で」と言うと、永冨士さんも「ええ僕も」と応じる。瑛士さんが久しぶりに描き上げた今回のメインの作品を見て永冨士さんが「これとかすごいなあ」「10年前に初めて会った時と作品の印象が変わっている。人物は描いていなかったですよね」と話すと、瑛士さんは「そうですね、人物とかは全然描いていなかったです」と答えた。昔を知る仲間は気づいてくれた。
永冨士さんが「ずっと10年以上続けられてきたことってすごく素晴らしいと思います」と語ると、瑛士さんは「そっくりそのまま同じことを永冨士くんに返したい」と笑い合った。
瑛士さんは「自分の意思でもって作品を制作する、主体性を取り戻すことが今回の展覧会で少しできたのかなって。息がある限り、この紙に向かって何か描き続けることができると今は信じています」と晴れやかに語る。
迷いはもうない。今日もただ、好きな絵を描いている。
※年齢等は2026年1月31日地上波初放送時点
(テレビ朝日制作 テレメンタリー『異才と呼ばれて』より)

