カブのハンドルに残された“射撃残渣”
2つめの柱は、2台のバイクと軽自動車。検察によると、捜査が被告にたどり着いたのはDNAではなくこの線からだった。
検察の見立てはこうだ。逃走に使われたカブと同じ夜に盗まれた、もう1台のバイク。2台は同じ一味が盗んだ。もう1台を盗んだ場面の防犯カメラには1台の軽自動車が映っていた。
その車は被告が借りていた車。だから、逃走用のカブを盗んだ一味にも被告がいる——。車からバイク、そして逃走用のカブへ。つないだ鎖のどこか1つが切れれば、田中被告とカブは結びつかない。
逃走に使われたのは、尾灯が切れたカブ。事件の翌年4月、現場から北東へ約1.4kmのマンションの駐輪場で、バイクカバーをかけられた状態で見つかった。そしてこのカブの両ハンドルグリップ部から射撃残渣(しゃげきざんさ)が検出されたという。射撃残渣とは、拳銃を撃ったときに出る火薬の燃えかすなどの細かい粒。撃った人の手や服に付く。
このカブは事件の2カ月前、10月8日の夜から9日の朝にかけて、京都府城陽市の民家でキーをつけたまま盗まれていた。同じ夜、京都市伏見区の牛丼店の駐車場でもう1台のバイク、ホンダ「トゥデイ」が盗まれていた。
防犯カメラには午前3時5分ごろ、軽自動車のホンダ「ライフ」が駐車場に入り、トゥデイのそばに10秒ほど止まって出ていく姿が映っていた。5分後、ライフが再び現れ、同じ方向から歩いてきた人物がトゥデイに乗り、ライフと一緒に走り去った。トゥデイも山科区で別のナンバーを付けて見つかった。2台のカバーは、同じメーカーの製品だった。
警察は、このライフを追った。照会で該当した同じ型のライフは3万9616台。39台まで絞り込み、特徴が一致したのは1台だけ。被告の幼なじみが持つライフだった。幼なじみの口座の取引記録から、被告との送金のやりとりが見つかり、被告の存在が初めて浮かび上がった。
田中被告は、普段使う車を2台持ちながら、このライフを2度借りていた。2度目は牛丼店でバイクが盗まれた夜を含む時期だった。車を貸した幼なじみは、法廷で、防犯カメラの車は自分の車と違うところはないかと問われ「特別ないが、(自分のものと)一緒とも思っていない」と発言した。
判決は、2台が同じ夜に同じような手口で盗まれ、そのころ被告がライフを借りていたことは認定した。しかし、裁判長は「トゥデイが本件犯行やその準備に使用された形跡は全くない」とする。
手口はありふれていて、盗まれた場所は、最も近くても1.22km離れている。カバーもサイズや鍵穴の有無が違う製品だったとし、「カブとトゥデイの窃盗犯が全くの別人で、意思疎通等を行うことなく、実行したことも十分に考えられる」とした。
ライフについても、特徴が偶然すべて合う確率は低く、防犯カメラに写っていた車両と同じ車である可能性は高い。しかし、同じ可能性が残る車は、ほかにも全国に1190台あったと指摘。仮に幼なじみのライフだったとしても、「被告人から(幼なじみの)ライフを借りた第三者が、被告人と意思を通じずにトゥデイを窃取した可能性も否定できない」と判断した。鎖は1カ所ではなく、いくつもの所で切れていた。
被告をめぐる「空白の3日間」
